50話 アズリアが守ったもの、その大きさを知る
「おお、ようやく目を覚ましたか!我が国をその生命を賭けて救ってくれた英雄アズリアよ!」
さすがに穀物粥一杯では腹も心も満たされなかったので、アウロラには悪いけど外で何かを食べてこようと部屋を抜け出した矢先。
部屋を訪れようとしていたのだろう、太陽王と王妃エスティマ様とばったり遭ってしまったのだった。
「今まで傷つき眠っていたところ申し訳ないけど、どうしても直接顔を見て礼を言いたくて。ノルディアに目が覚めたら報告するように妾が命じていたのよ、そこは許して頂戴」
太陽王のアタシを気遣う言葉に続けて、王妃様が前に進み出て頭を下げてくるのだった。
王妃様の背後に控えているノルディアが、アタシに申し訳なさそうにペコペコと頭を下げている。
「ノルディアに聞いたわ。本来ならば彼女に命じていた遊撃隊の任務にアズリア、あなたも加勢してくれていたのね。しかもあなたが単独で魔族の一体を倒したのは彼女も見ていたのよ。そんな状態であの魔人と戦ったなんてね……驚嘆と言う他ないわ」
王妃様が頭を上げてくれたのはよいが、あと一歩近寄れば触れるまでの距離まで歩み寄ってくると、アタシの顎を掴んで、艶っぽい表情を浮かべて遊撃部隊で女魔族を倒した時の話をし始める。
「い、いえ、そんな……アタシはこの通り3日もよく寝たおかげで身体のほうは結構良くなりましたし……それこそ王様と王妃様だって戦ったんだ。何もアタシだけに礼を言わなくても……」
「いや、それでもだ」
アタシが何かを言おうとするのを片手を上げて、これから口に出さんとする言葉を制する王様。
「アズリアよ。お前が魔族の侵攻を余に教えてくれた時に余が頭を下げるのをお前は止めた。礼を言うのは侵攻を退けた後だとな……だから今、あの時の感謝も含めて礼を言わせてくれ」
そして王様が突然膝をついて腰を下ろしたかと思うと、そのままアタシへ向けて頭を深々と下げてくる。
それに続いて、王様の隣に立った王妃様とノルディアも膝を着いて腰を下ろすと、同じように頭を深々と下げてくるのだった。
「アズリアよ……この国を救ってくれて本当に感謝に絶えない。余はお前が余とこの国にしてくれたことへの恩が二つあることを決して忘れはしない」
「ちょ、ちょっと王様……な、何をしてるんだよ、誰が見てるかもわからないんだから、こんなトコで頭下げないでくれよっ?頭上げてくれよ、お願いだからっ」
アタシはさすがに王様と王妃様に頭を下げさせているこの状況があまりに居た堪れなくて、その場に座り込んで王様たちに頭を上げてもらうようお願いするのだった。
すると、突然王様が立ち上がってアタシの腕を掴んだかと思うと、その腕を引っ張りながらとある場所へと連れて行こうとする。
「……え?えっ?ちょ、ちょっと待ってって王様っ、アタシを一体どこへ連れて行こうとしてるのかまず説明してくれよっ?」
「着いたぞ。これを見れば余の言っているコトを少しでも理解してくれると思ってな」
「…………え?……こ、これは……」
王様に手を引かれて到着したのは、宮殿から央都の中心部が一望出来る張り出した屋根だった。
その街側には央都の住民や兵士、騎士やシルバニアから来た冒険者などが集まっていて、屋根部分からアタシが見えた途端に大きな歓声が上がっていく。
「おっ、あそこ見ろっ!」「うおおおっ!アズリアだ──っ!」「……あれが魔族を一蹴した女戦士かよ」「ありがとう!あなたのおかげでこの街は救われた!」「あの戦いぶりは凄かったぞっ!」「格好良かったわ!」「ありがとう──っ!」
……こんなに大勢の人々が「忌み子」と蔑まれて故郷を追われたアタシに感謝してくれるなんて。
アタシの目頭が熱くなってきたのを感じ、続いて頬を熱い液体が伝う感触。
「アズリアよ。あの者たちの生命を、日常を、そして未来を、余だけでは救えなかったモノをお前の剣と腕が救ったのだ。そして、それは素直に誇ってよいものなのだ」
「……ありがとうございます、王様……アタシ、少しだけ、自分ってヤツを信じてあげられる気がします……」
王様に肩を抱かれたままで慰めの言葉を聞きながら、今までアタシがどこか自分の成果に自信が持てなかった心の壁が氷解していくのを感じていた。
と同時にアタシは今初めて、あの魔人との死闘に。そして魔族の侵攻に「勝った」と実感出来たのだった。




