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49話 アズリア、死闘の傷痕を癒す

 ……そこから先の記憶がない。

 次にアタシの視界に広がったのは、どこかの建物の天井だったからだ。この天井の装飾からして街内の治療院とかではない事だけはわかるが。


「……それにしても、身体中包帯と薬草塗れだよ。今回は手酷い傷を負っちゃったね……まあ何とか身体は動くみたいだけど」


 自分の身体を見てみると全身に包帯が巻かれ、塗り薬特有の薬草の臭いが部屋中に充満していた。酷い火傷特有の皮膚や筋肉が引っ張られる感触はあまりないが、やはり身体を動かすと激痛が走るのは「wunjo(ウニョー)」を発動し過ぎた後遺症だろう。


 ふと、扉を開く音がしたのでそちらに顔を向けると、ユメリアにアウロラ、そしてノルディアと立場も違う三人が揃って部屋に入ってくると。

 ユメリアが泣きながらアタシにしがみついてきたのだった。

 

「アズリア様ッッ!ようやく目を覚ましたんですね!……もう、いくら私が治癒魔法を掛けても目を覚まさなかったんですから……うっ、うっ……」

「ありがとね、ユメリア。ほら、アタシは目を覚ましたんだし、もう泣くなよ」


 そんなユメリアの頭を撫でて、包帯が巻かれた指で目に貯めた涙を拭ってやると。

 その背後に立っていたノルディアが(うやうや)しくアタシに一礼すると、


「あ、アズリア様、ユメリアさんがし、心配するのは当然ですよ?……あ、あれからアズリア様は、み、3日、目を覚さなかったの、で、ですから」

「3日も……寝っぱなしだったのか、アタシ」

「そ、それは間違いあ、ありませんよ。不肖、こ、このノルディアも、ま、毎日欠かさず……あ、アズリア様を見舞わせて……い、いただきました、か、から」


 何故か誇らしげに胸を張るノルディア。

 にしても、彼女のこの喋り方……最初は緊張してるからだと思っていたし、遊撃隊に同行していた時はキチッとした口調だったけど……もしかしてこの喋り方は緊張とかでない?

 そんな二人をよそに、あらためて奥から湯気があがる器を持ってくるアウロラ。


「ほらほら二人とも。アズリアが目を覚ましたから嬉しいのはわかるけど、この食いしん坊が3日も何も食べてないんだから。まずは腹ごしらえさせてあげなきゃ」


 その湯気から何ともいい匂いが漂ってきて、その匂いを嗅いだ身体が敏感に反応し、腹の虫を鳴らしてしまう。 

 その腹の虫に三人が声をあげて笑い合うと、アタシはあまりの間の悪さに顔を真っ赤にして掛け布(シーツ)を被って照れ隠しするのだった。




「……あれだけ酷かった火傷の痕も特に残ってないみたいですね。良かった……アズリア様に火傷の痕が残ったらどうしようかと……」


 アタシがアウロラから用意された食事を平らげている合間に、ユメリアが身体のあちこちに巻かれた包帯を巻き直し、塗り薬の塗られた布を交換しながら治癒された肌の具合を確かめていた。

 この薬草の匂いが凄い塗り薬も、ユメリア曰くこの国(アル・ラブーン)秘伝の調合なのだという。

 

「まあ、我ながら一人旅してたら色々あるからね、身体のあちこちにゃ傷痕やら残りっぱなしだから……今更火傷の一つや二つ残ったから何も変わんないと思うんだけど」

「そんなコトはありませんよ!」

 

 火傷の痕一つくらい傭兵や冒険者を長く続けていれば残るモノだし、それを戦歴の自慢にしている連中だっている。そう思い軽い気持ちで言葉を返すと、ユメリアが凄い剣幕でアタシに顔を近づけてきた。


「アズリア様だって立派な女性なんですよ!傷痕を残すなんてそんな勿体ない真似は治癒術師のこの私の目の黒いウチは許しませんからねっ!」

「わ、わかった……わかったから、顔が近いっ、何でユメリアがアタシのコトでそんなムキになるのか知らないけどわかったからっ」


 ユメリアが「小言モード」に突入した時の対処法、それは黙って頷き続けることだった。

 まあ心配してくれているのはありがたいが、大柄で男勝りなアタシを女性として見る人間が果たしているのか、という疑問はユメリアには言わないでおく。


「……まあ、多分……火傷の痕があっても、アズリア様でしたら……お兄様なら問題はないかと……」

「……ん?何か言った、ユメリア?」

「な、な、なな何でもないですから!」


 それにしても……アウロラの用意してくれた食事は確かに美味い、っちゃ美味いんだけど。

 薄味の穀物(オートミール)粥一杯だけじゃ腹が満足出来ない。


「なあ、アウロラ。あのさ……アタシせっかくだから前に食べたキョフテや川魚蒸しとまではいかなくても、カダイフくらい食べてみたいかなー……なんて」

「駄目よ。3日もお腹に何も入れてないのに、いきなりご馳走食べたらお腹がビックリして食べたモノ全部戻してしまうわよ」

「何だよー……せっかくアウロラがいるってのに、ご馳走食べられないとか、どんな拷問だよ……」


 アウロラがアタシのお腹の心配をしてくれて粥を出してきたのはわかるけど、宿場町で振る舞ってくれたアウロラの料理(フルコース)を思い出したら……また腹が減って口の中に(ヨダレ)が湧いてきてしまうのだった。


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