48話 アルマナ防衛戦、その決着
「うがあァァァァァあ⁉︎……が……あ……ま、まだこれほどの大魔法を撃つ力がぁぁぁぁ‼︎……だ、だが……まだだ!まだ我は倒れんッッ!」
天から降り注ぐ光の奔流に飲まれ、身体のあちこちが焼け焦げていく蠍魔人だったが。
絶叫をあげ身体を焼かれながらも、王妃が長い詠唱の後に解き放った月の超級魔法「全てを貫く月煌」の凄まじい威力を持ってしてもなお、かの魔族を倒し切るまでには至らなかった。
「……あの手傷を負ってなお、押し切れませんでしたか……妾が日頃の魔力鍛錬や詠唱短縮の勉強を怠っていたツケ、という事ですか」
「では、これに反省し毎日の鍛錬は逃げないでいただきたいですね、王妃様」
「わ、わかっています……だけどまずは」
「そうですね、この危機を乗り切ってからです」
何故ならばこの「全てを貫く月煌」、王妃一人の魔力では発動することが出来ないため、宮廷魔術師長の力を借りてようやく発動出来たためだ。
「魔人コピオス!騎士としてはこのような状態の相手を斬るのは気が引けるのだが……これも我が国のため、覚悟せよッッ!」
仕留め切れはしなかったものの、外殻のあちこちが剥がれ落ち、身体は焼け焦げ、もはや誰が見ても蠍魔人は虫の息だった。
その魔人に剣を構えながら突進していくノルディアに何とか両斧槍を構えて迎撃体勢を形だけは取るが。
ノルディアの握っている剣を見て驚愕する。
「き、貴様ッッ?そ、その剣はッ……」
「そうだ!我が国の至宝、太陽の魔剣クラウソナスだあッッ!」
そう、ノルディアの手に握られていたのは腰の愛用の長剣ではなく、城壁から出撃する際に王より承った太陽の魔剣クラウソナスだったのだ。
「憤怒憑き」の能力を発揮していたノルディアの輝く刀身での一振りは、魔人が構えていた両斧槍を両断し、そのままアズリアの大剣の先を生やした胸板を深く斬り裂いていった。
「ぐうおおおォォォォォ⁉︎ば、馬鹿な……こ、この我が……西の魔王様より預かりし魔物らを率いるこのコピオスがァァァァァァ!」
かたや満身創痍の魔人、かたや万全の状態での女騎士。さらに彼女が持つのが太陽の魔剣となれば、この斬り合いの結果は当然だった。
それでもまだ蠍魔人は倒れない。
……なんという意地なのか。
ふと魔人は自分をここまで追い込む傷を負わせ、その代償として動けなくなるほどの重傷と魔力枯渇を招き倒れ、精霊に介抱されている女戦士に視線を向け……そして目を見開いた。
……そこに女戦士の姿が見えなかったからだ。
「……この娘の魔力を回復させるには十分な時間を稼いでもらったわ。ほらアズリア、この戦いの終止符を打ってきなさい」
「お姉さんの魔力もアズリアちゃんにあげたんだから〜とっととあの魔族をやっつけて身体を休めてあげないとね〜」
精霊たちが何かを話していたが、その会話の内容よりも今はアズリアだ、と言わんばかりに何とか動く身体を酷使して女の存在を探している蠍魔人。
「────ここだよ、コピオス」
その女戦士の声が背中から聞こえてきた。
すると、胸板から突き出ていた大剣の切っ先が真っ赤に変わっていき、その傷口から白煙と肉の焼ける臭いが上がり始める。
「我、勇気と共にあり。その手に炎を────ken」
「うがぁ⁉︎ぎ……ぎゃあああァァァ!な、何をしたあァァァあず、アズリア貴様ああァァァ⁉︎」
師匠と水の精霊の介抱と魔法での治癒によって、身体の傷はともかく枯渇していた魔力が補充されたアタシは、背中から自分の得物である大剣の刀身に「ken」の血文字を刻み発動させたのだ。
今度は正確な詠唱で。
刀身が白熱化した大剣は、内側から蠍魔人を焼いていく。
そしてアタシは握りの部分を両手で掴むと、刃を横にして突き刺したその刀身をグリッと握りを捻って刃を縦向きに変えていく。
胸板に大剣が貫通したまま、刀身を体内で焼かれながら抉られる激痛に、絶叫を上げ続ける魔人。
「────終わりだよ、コピオス」
そのままアタシは力を込めて、縦になった刀身を上に斬り上げ、そのまま貫通していた刃が胸板から頭まで両断していく。
「……が…………は…………あああ…………」
頭すら両断され、もはや言葉にならない断末魔とともに蠍魔人の身体が灰となり崩れ去って砂漠の大地に吸い込まれていった。
そうだ。
アタシ達はこれでようやく「勝利した」んだ。
そう思った瞬間に、フッと身体の力が一気に抜けて握っていた大剣を落とし、その場合にへたり込んでしまった。
魔人との激しかった死闘が終わりを告げ、戦場となった城壁前には沈黙が流れていたが。
その沈黙を破ったのは、城壁から聞こえてくる勝利を祝う勝鬨と大きな歓声だった。
合計10話ほどかけて続けてきた魔族との戦闘パートもこの話で終了です。
次回からは後日談と第三章に繋がる話を3〜4話入れて第二章が終了する予定です。




