魔王様はやっぱり眠りたい
読み返してみてたらなんかもの足りなく感じたので、前話、最後に少し文章足しました。
20200224
「六十五点」
「魔王様、それは点数が甘すぎかと。三十点」
「こっ、これでも街一番の歌声と言われてたのに?何がダメだったんですか?!」
「声?」
「抑揚も調子も外れてます。よくぞ恥ずかしげもなく魔王様の前に出てこれたものですね」
「お帰りは真下!奈落、オープン!!」
「なっ…?!」
私の掛け声で、今回の自称·詠唱者の足元に転送魔法陣が展開し、一瞬でその体が黒円に吸い込まれていった。
だが、安心してほしい。
魔王城内より出されはするが、その者が一番に思い浮かべた場所、もしくは人のそばへと転移できるようになっている。安全面は万全だ。
「魔王様、お疲れさまでした」
「今日は今の人で終わり?」
「本日はちょっと多めでしたね。まぁ、完成度はひどい物ばかりでしたが」
「そうなんだよねぇ。どうしても点数が辛口になるなぁ」
あの点数で?という目でユーノに見られたが、まぁ、ここまで来たご褒美という点も加味しているので、あの点数になるのだ。
「だって、この魔王城まで来てもらってるんだから、少しは点数に色付けてあげようかな、って」
「魔王様はお優しすぎる」
あれ、このやり取り、前にもなかった?
「だって、ユーノの声がずば抜けていいし、完璧だから他の人のは全然なんだもの」
ちょっとむくれてそうボヤくと、ユーノが片手で顔を覆った。最近は何となくわかって来たけど、指先から外れて見える、目じりがほんのちょっぴり赤い。これは照れている証拠だ。
ふいに浮遊感を感じたと思ったら、なぜか寝台の上に転移していた。
「魔王様、今日の業務はこれにて終了です」
「いやいやまだだよ?!まだ、この魔王ランド(仮)は完成してないし、もっと人呼びこんで一大テーマパークにするのが私の野望なんだから!」
なんだかんだあって、私とユーノはより仲良く(意味深)になった。
わたしを封印につかせたくないユーノと、せっかくだからこの異世界を楽しんでしまおうと思った前世社畜だった私は、『魔王ランド(仮)』として、魔王城の周りをテーマパーク化している最中だ。いまいち、私の目指すところを理解されているかどうか微妙だが、私は有り余る魔力で持って、元の世界の某世界的テーマパークなどを参考に、誰でも楽しめるエンターテインメント溢れる場所にしたいと日々頑張っている。
ちなみに今の時点で、魔王城は謎解きキャッスルとなっている。命の危険はないが、謎を解いて謁見の間までたどり着けないと、詠唱者は私に封印の呪文を聞かせることはできない。詠唱者じゃなくても、この魔王城の謎解きにチャレンジしてもいいので、たまに一般人などが挑戦に来たりする。
魔王城下の宿が盛況だ。今や私が直々にチェーン展開している魔王ホテルは世界に羽ばたいている。目指せ!百店舗!!なお、従業員は全て私の魔力で動くゴーレム人形を、と考えてたが、雇用促進などを考え、私直轄のホテル以外は現地の人を採用。監督役として魔族の人型に近い者を派遣してみた。最初は忌み嫌われたり、恐れられたりするかと思っていたが、人型の魔族は容姿が整っているためか、意外と人族にもてているようだ。すでに人族と結婚した者もいる。魔族の性格は魔王の性格に由来するようで、私は睡眠欲が一番の人畜無害な性格だったせいか、魔族たちも人と友好的に打ち解けている。千年ほど前に征服欲にまみれた魔王が目覚めたらしいが、さすがに昔過ぎることもあり、現在はさほど魔族だからと嫌煙されるほどではない世情であったのも幸いしていた。
まぁ、悪さするやつがいなくもないが、フットワークの軽い私とユーノがいれば、悪事は即露見し、お仕置きされるので、あまり羽目を外すやつもいない。
「ダメです、魔王様。また貴方はちゃんと寝ていないでしょう?!」
「うっ、それは……」
そう、睡眠欲一番のはずの私だが、やっぱり仕事も好きだったのだ。何もないところに一から作り上げる。しかも無尽蔵の魔力で!なんて、クリエイティブな仕事をしていた私がのめりこまないわけがない。ついつい、睡眠をさぼって仕事に没頭する日々が続いている。
「さぁ、私を煽った罰です。一緒に眠りましょう?」
「え、それって、寝るの?寝られるものなの?!」
「私が満足したら、眠れますよ?」
あ、無理だこれ。
少なくとも、ユーノは半日は満足してくれない。
「大丈夫です、魔王様。あなたの身代わりは用意しておきましたから」
「レニ……」
おそらく、ユーノに無理強いされて、レニが私の姿を模して玉座についている姿が目に浮かんだ。
ごめん、レニ。
がんばって、下手な呪文を聞いておいて。
「寝所の上で、私以外の名を呼ぶとは、まだだいぶ余裕がおありですね?」
「ひっ!」
すぅ、と目を細めたユーノは、凄惨な笑顔を見せた。
最近、わりと私の前では笑って見せてくれるけど、これはダメだ。
丸一日コースに突入したと考えていい。
「大丈夫です。本当に貴方が睡眠を欲したら、わたしの聖なる呪文で眠りについていただきますよ。もちろん、後でちゃんと起こして差し上げますけどね?」
「どっ、泥のように眠りた…むぐぅ!!」
私の叫び声はユーノの口内へと消えていった。
百年ほど、魔王城とその近辺の施設が稼働していたと古い歴史書では記されている。
その後、緩やかにそれらは活動を止め、いつしか廃墟となった。魔王の目覚めによる魔力供給と眠りによる澱みの解消のサイクルはいつしかなくなり、世界は清浄な魔力が満ちるのみとなった。
魔王という存在は神話やおとぎ話の中にしか存在せず、いつしかそれらすべてが忘れ去られていった。
なお、異説として、最後の詠唱者が魔王と魔力を分断する魔装置の作製に成功し、二人はいずこともなく消えたと記されている。その魔装置は誰も知らない場所に設置され、清浄な魔力を世界に供給し続けているので、この世界には魔力が満ち満ちているのだ、と。
「魔王様、魔力がなくなったお体はいかがですか?」
「うーん、こっちの方がもともとの体に近いからそんなに違和感ないけど―――一度覚えた便利さを手放すのは、ちょっと残念だったなぁ」
「そのために私がいます。なんなりとご命令を、魔王様」
「えー、それじゃあ、魔王城からあんまり外出られなかったから、世界一周旅行したい!」
「そんなものでいいのですか?」
「え、ダメ?ユーノと一緒に街歩きして、買い食いして、キレイな景色見たいなぁ、と思って」
「……魔王様の御心のままに」
その前に、ちょっとだけ寝所寄っていきましょうか、と最近はまるで遠慮のなくなったユーノに引きずられて、出発がだいぶ先に延びてしまったのはまた別の話。
これにて本編終了です。
読了ありがとうございました。