雪像と幻夜蝶
窓際クランの奮闘記(https://ncode.syosetu.com/n9122fv/)のスピンオフ作品です。
しかし、この作品だけでも読めるようになっていると思います。
(登場人物概要)
ユーリ、レイラ、フィーの三人は窓際クランのクランメンバー。
このままでは来年には無くなってしまうクランで、必死に、でも面白おかしく生活しています。
そんな彼らの冬の一幕を切り取りました。
ユーリたちは王都の近くの森に来ていた。
この森は多くの動植物が生息しているが、王都の近くということもあり、モンスターがほとんど存在しない。
どうしてユーリたちがこんな森にいるかというと、幻夜蝶という冬にだけ現れる特殊な蝶の鱗粉の採取を依頼されたからだ。
広間となっているところまで来て、ユーリたちは荷物を置いた。
「やっと着いたな」
「ここら辺で目撃報告があるの?」
「そうらしい」
ここは春から秋にかけては馬車の休憩場として使われるところだ。
雪がかなり積もっているため、一面真っ白だが、少し掘れば焚き火の跡などが見つけられる。
「じゃあ、とりあえずテントを張るか」
「・・・私は、薪を拾ってくる」
「おう。頼んだ」
ユーリは地面を露出させ、テントを張り始めた。
ちなみにフィーも手伝おうとしてくれたが、速攻で杭を一つダメにしたのでユーリが戦力外通告をした。
「よし!」
完成したテントを見て、ユーリは満足げだった。
蓋張りのテントを立てたにしては時間がかからなかったと思う。
「・・・こっちもできた」
満足げな顔をしているユーリにレイラが話しかけてきた。
どうやら、薪拾いだけじゃなく昼食の作成もしてくれたらしい。
「おつかれー。早かったな」
「薪拾いはフィーが手伝ってくれたから」
どうやらユーリから戦力外通告を言い渡された後、薪拾いをしていたらしい。
ここにいないことを考えると、料理ではレイラに戦力外通告をされたのだろう。
「そのフィーはどこいったんだ?」
「・・・そういえば、さっきから見てない」
簡単に見回してみたが、彼女は見当たらなかった。
ユーリとレイラが探しに行こうとした時、遠くからフィーの声が聞こえてきた。
「ねー。二人とも見てー」
フィーの声がする方に行くと、フィーが自慢げに立っていた。
そして、その後ろにはフィーの身長の1.5倍はありそうな雪だるまがあった。
「どう!?すごいでしょ!」
渾身のドヤ顔を披露するフィーにユーリは拍手をした。
「おー。すごいな。作ったのか?」
「・・・おおきい」
怖められたのが嬉しかったのか、フィーは鼻高々だった。
そして、言ってはいけないことを言い放った。
「ふふん。二人には真似できないでしょ!?」
さっきまで笑顔だったユーリとレイラの顔が固まった。
ゆっくりと視線を雪だるまからフィーに移した。
そして、ニコニコと笑いながらいった。
「おいおい、雪上にその人ありと言われたこのユーリ様に向かって言ってくれるじゃないか」
「・・・雪は氷の親戚。私に氷に関することでケンカを売るなんて、愚か」
「「「は?」」」
三人の視線がぶつかった。
「誰が一番すごい雪像を作れるか」
「・・・競争」
「だな!」
そして、三人は別々の方向へと駆け出した。
***
大きな雪玉をさらに大きな雪玉の上に重ね、フィーは大きく息を吐いた。
「ふー」
ピョンと地面に飛び降りて、フィーは大きな雪だるまを見上げていた。
雪だるまはさっきの3倍以上は大きい。辺りの木よりも頭一つは飛び出していた。
「・・・大きい」
「あ。レイラ。そっちはできた?」
「・・・(コクリ)」
レイラは後ろを指差した。
そこにはいまにも動き出しそうなレオ、ライフ、亀吉の雪像があった。
「え!?すご!」
大きさこそフィーには遠く及ばなかったが、細部まで作りこまれており、雪で作ったとはとても思えない。
近づいて見ても否の付け所が見つからない。
「さすがレイラね」
「・・・頑張った」
フィーは三人目のパーティメンバーを探して辺りを見回した。
「そういえばユーリは?」
その時、フィーの後ろからユーリの声が聞こえてきた。
「おぉ!フィーもレイラもすごいな!」
ユーリは感心したようにフィーの雪だるまを見上げ、レイラの雪像を近くに寄って細部まで観察していた。
まさに大はしゃぎだ。
「・・・ユーリのは?」
「俺のはあれだ」
ユーリが指差す先にはかまくらがあった。
しかし、フィーとレイラはピンときていないらしく、首を傾げていた。
「何あれ?」
「・・・雪山?」
かまくらは三人くらいなら入ってくつろげるくらい大きかった。そして、中央にはわざわざユーリが作ったと思しき七輪がパチパチと音を立てていた。
「かまくらって言うんだけど、知らないか?」
「知らないわね」
「・・・初耳」
首をかしげる二人の手を取って、ユーリはかまくらの中へと入っていった。
「そっか。まあ、入ってみろよ」
恐る恐るといった感じでかまくらに入ったフィーとレイラだったが、入ってみると予想以上に快適だった。
「あれ?暖かい?」
「・・・雪の中なのに、不思議」
「どーよ?」
ユーリが自慢げに胸を張ると、フィーとレイラは七輪に手をかざして暖を取り始めた。
「これはいいわ」
「・・・いい」
フィーとレイラはその場に根付いてしまったように動かなくなった。
ユーリがその隣にしゃがんで暖を取り始めるとぐ〜っとお腹がなる音が聞こえた。
「お腹すいたな」
「・・・昼ごはん、ここに持ってきて食べる?」
レイラの発言を聞いて、フィーはばっと立ち上がった。
「それがいいわね」
「よし。じゃあ、ちょっくら持ってくるか」
フィーとユーリは連れ立って食事をとりにいった。
***
ユーリが作った七輪の上でスープを温め直した。
ホカホカと湯気を立てるスープが体の隅々まで広がり、いつも以上に美味しく感じられた。
「レイラの料理はいつも美味しいけど、外で食べるといつも以上に美味しく感じられるな」
「そうね。このスープとか、体の芯からあったまるわ」
「・・・ありがとう」
三人でとりとめのない話をしながら食事を食べる。
いつもと少し違う食卓にはいつもと同じ暖かい空気が満ちていた。
***
鍋の中からスープはなくなり、一緒に食べていたパンも、最後の一切れをフィーがぱくりとたべてしまった。
最近は日も短く、すでに外は暗くなり始めていた。
「はー。楽しかった」
「・・・満足」
ゴロンと横になるユーリと満足げにお腹をさするレイラ。
ゆったりとした時間が流れていた。
「ちょっと、こんなところで寝ないでよ?雪でできてて、いつ崩れてもおかしくないんだから」
「硬化の魔法で強化したから平気だよ」
「いつの間に」
ユーリはゴロンとフィーの方へと向き直った。
「俺たち、なんでここにきたんだっけ?」
「・・・幻夜蝶の鱗粉を取りに来た」
「あぁ。そうだった」
ユーリは素でここにきた目的を忘れていた。
レイラに至っては、楽しかったから、今回見つけられなくてもいいかなとさえ思っていた。
グダグダである。
「幻夜蝶ってどんな蝶なの?」
フィーはもともと行き当たりばったりで、何も調べずにきていたため、目的の蝶がどういうものかまだわかっていなかった。
ユーリは図鑑の記述を思い出しながらフィーの問いに答えた。
「この季節に飛んでる蝶なんて一種類だけだよ。白くて、昼間は見つけられないけど、夜になるとうっすら光るらしい」
「・・・もしかしてあれじゃない?」
レイラが指差す先をユーリとフィーは見た。
かまくらの外、フィーとレイラの雪像に数匹の蝶が集まっていた。
「あー。あれだ!」
ユーリは一気に目を覚まして、採集用の瓶を持って飛び出した。
雪像の近くまで来たはいいが、どうしていいかすごく迷っていた。
雪像は幻夜蝶にうっすらと照らされ、イルミネーションのように幻想的なものへとなっていた。
「どうやって採集するの?」
「捕まえて採集するしかないんじゃないか?」
図鑑には採取方法は乗っていなかった。
しかし、鱗粉と言うくらいだから、羽についているのだろう。それを捕まえた後に採取すればいいとユーリは考えていた。
「・・・でも、今捕まえると、雪像が壊れる」
しかし、今幻夜蝶はフィーとレイラの雪像に止まっている。捕まえるために近づけば、雪像が傷つくことになる。
「せっかく私たちの作品を気に入ってくれたみたいだし、そっとしておきたいわね」
「綺麗に飾ってくれてるしな」
ユーリは、瓶の蓋を閉めて、諦めるように深く息を吐いた。
「はぁ〜。仕方ない。今日は諦めるか。採取方法もちょっと調べる必要があるかな」
「仕方ないわね」
ユーリが踵を返して鎌倉へと戻ろうとすると、数匹の幻夜蝶がヒラヒラと飛んできて、ユーリの周りを飛んだ。
ユーリはびっくりしてその場に立ち止まった。
「お?どうした?」
フィーとレイラは振り返り、その光景を見た。
ユーリの周りを舞う蝶の群れはどんどん増えていっていた。
そして、レイラは少し考えた後、ユーリに近づいた。
「・・・ユーリ、瓶の蓋を開けて見て」
「お、おう」
何やらわけもわからずユーリが採取用の瓶の蓋をあけると、周りを舞っていた蝶は開いた瓶の周りを舞い始めた。
すると、瓶の中にはみるみるうちに鱗粉がたまっていって、すぐに瓶は幻夜蝶の鱗粉でいっぱいになった。
「これは」
「・・・分けてくれるみたい」
瓶いっぱいに鱗粉がたまると、幻夜蝶は仲間と一緒にどこかへ飛び去っていった。
ユーリたちは感謝の言葉とともに手を振って去っていく幻夜蝶たちを見送った。
「手に入ってよかったな」
「・・・幻夜蝶も綺麗だった」
ユーリは瓶の蓋を閉めると、そのうっすらと輝く鱗粉を見た。
フィーとレイラもその粉に見入っていた。
大瓶一本と大盤振る舞いをもらってしまって、申し訳ない気分すら生まれてきた。
「何かお返しがしたいわね」
そう最初に言ったのはフィーだった。
ユーリとレイラも頷いて、どうやってお返しをしようかと考え出した。
ユーリは何かを思いついたのか、ポンと手を打った。
「雪像が気に入ってたもたいだから、雪像を作ったらいいんじゃないか?」
ユーリの発言にフィーとレイラもばっと顔を上げて、輝いた目をしていった。
「それよ!」
「・・・すごいのを作る」
やることが決まったら、あとは動くだけだ。
フィーは手袋と上着を脱ぎ捨てた。
「私、雪を集めてくるわ!」
そう言い残して走り去っていった。
いったいどこまで雪を取りに行ったのか。
ユーリは見えなくなったフィーの背中に向かってぽつりと呟いた。
「いや、明日にしようぜ」
ユーリとレイラは顔を見合わせたあと、荷物をテントに戻した。
「・・・仕方ない。私も手伝う」
「はー。やるかー」
この後、ユーリたち三人は夜通し雪像作りを行った。
***
空が白み始める頃、三人は達成感を感じていた。
「できたー」
「・・・いい出来」
「これなら幻夜蝶も喜んでくれるかな」
ユーリたちは三人で作った雪像を見上げた。
いまにも動き出しそうな幻夜蝶が飛び回るそんな作品だった。
レイラの繊細な氷づかいで蝶から溢れる鱗粉まで完璧に再現されており、朝日を反射してキラキラと輝く様子はまるで夢の国にでもきたようだ。
フィーがあたり一帯から雪を集めてきたので、サイズは小山のように大きく、休憩エリアのどこからでも、もしかしたら森の外からでも見ることができるかもしれない。
その上、ユーリが全力で硬化の魔法をかけたので、春が訪れるまで崩れることはないだろう。
ユーリは雪像に背を向けて、テントの方に向かった。
「よし!目標も達したし帰るか」
フィーとレイラはその後ろについていく。
「そうね」
「・・・今から帰れば、今日中にクランハウスに帰れる」
三人は後かたずけをしながら、昨日今日の楽しかった思い出を思い出していた。
「また、来年も時間が取れれば来たいな」
「いいわね。来ましょうよ」
「・・・来年はもっとすごい雪像を作る」
ユーリたちはきた時よりも綺麗にその場をかたずけた。
最後に一度、自分たちの作った雪像を眺めた後、軽い足取りでその場を後にした。
***
ユーリたちが持ち帰った幻夜蝶の鱗粉は最高品質だったらしく、ちょっとした騒ぎになった。
そのため、その採集方法はいろいろな人に聞かれた。
隠すこともできたが、春までは残るあの雪像がある以上、バレるのは時間の問題なので、探索者ギルド経由で採取方法を発表した。
あの採取方法なら、幻夜蝶のためにも発表する方がいいと思ったのだ。
実際に、雪像を作ってみると、お礼のように幻夜蝶が鱗粉を分けてくれ、それらは最高品質で、品質が雪像の出来に比例することがわかった。
それ以降、冬になると、その森には多くの芸術的な雪像が作られるようになった。
それまで名前がなかったその森が雪像の森と言われるようになり、王都の冬の観光名所になるのはもう少し先の話だ。
札幌雪祭り行きたい。
でも遠くて行けない。
なので、物語の中でユーリたちに体験してもらいました。
関東在住なので、雪国の方からしたら、そんなのありえねーと思われるかもしれませんが、ハイファンタジーなので、許してください。