90 最終話
ドルス領にある拠点にやってくると、あちこちで肉を焼いてるらしく いい匂いが充満している。早速狩りに出たのか…元気だな
ガッシュはどこだとフラフラ探していると、あちこちから焼き肉の差し入れをいただいてしまう。 うん、うまいね
ようやくガッシュを見つけた
「ようガッシュ、お疲れさん」
「あ、トーヤさん お疲れ様です。帝都の方はどうでしたか?」
「ああ、うまくいったよ。 それで帝都にいた獣人達300人以上いたかな、そいつらはここを目指して来るってさ。 4~5日もすれば到着するんじゃないかな」
「300人以上ですか…現状だと住む場所に困る所だけど、魔の森が近くにあるから自分達で伐採からやらせれば大丈夫かな…」
「もうここに国でも作っちゃえよ。帝国だの誰の領地だのってもう関係ないし、そういった選択肢も考えてもいいぞ」
「国とかは大袈裟ですね、町で十分ですよ。住みたい奴は住めばいいって考えですかね、 もう縛られる事もないので自由にやりますよ」
「ああ、それで良いと思うぞ」
「ところで、召喚された異世界人の方はどうなったんです?」
「それならバートリー伯爵家に置いてきた。まぁ後ろ盾というか この世界の常識に触れさせるためにな。あの家にはミラもいるし、おかしな事はしないだろう」
「そうでしたか、あっとそうだ ドルス公爵家のお嬢さんが来てるんですが、どうします?」
「どうするかなー 俺に喧嘩売った前領主を幽閉したと言いながら、特に不便なく暮らさせているようだし 身内に甘すぎるんだよな。 そうは思わないか?」
振り返って声をかける。 そこにはグラスが立っていた
「聞こえてたんだろ?今の話。 そこんとこどうなんだ? ああ、前領主の事は 俺が見に行って確認した事だからな」
「申し訳ございません。私の見てない間に兄が勝手にやったのかと…今すぐ戻って 兄共々断罪してまいります」
「前に会った時にも言ったけど、もう手遅れなんだよ。 まぁせいぜい頑張って生き抜く事だな、この場所に獣人達が住み着く事で魔物による被害は激減するだろう。 それに感謝して暮らすといい」
「そんな…」
グラスがかっくりと膝をついた。 それでも仕方がない、ガッシュ達との約束を守って奴隷から解放した時は ずいぶんとまともな貴族なんだと思っていたが、他の貴族よりもほんの少しだけまともだったというだけだったのだ
それに公爵家だから、王家の血筋だから 残しておけば後々面倒が起きるだろう。 どうも皇帝の血筋の者は、過去の栄光を再び取り戻そうといらんとこで頑張っちゃう家系みたいだしな。 勘ぐりすぎかもしれないけどね
「ガッシュはこれからどうするんだ?獣人達の王にでもなるのか?」
「いやいや、ないですよ。 俺はこれからも狩人として前線に立ちますよ」
「そうか、でもまぁ これからが大変だぞ?獣人奴隷を解放出来て安心してるんだろうけど、人数が増えると問題も増えるし、ある程度の法整備をしてちゃんと統率してないと アルカイト王国やアマンダ連合国とも問題を起こしかねない、そうなった場合 俺はどちらにも味方しないからな。 今回の事は帝国に問題があったから手を貸しただけ…初めて会った時にそう言っただろ?」
「覚えてますよ、俺達獣人の中でも多種族ありますが 基本的に狩場があって飯に困らなければ問題は無いんです。 わざわざ他の国に行ってまで問題を起こすようなら、それはそいつら個人の問題なので きっちり罪を償わせますよ」
「そういう事ならもう言う事は無いな、じゃあ俺は帰るから 頑張って生きろよ。 あー後、貸し出してたマジックバッグ、後日取りに来るから集めておいてくれ」
「わかりました、 本当にお世話になりました 獣人の代表という訳じゃないですけど礼を言わせてもらいます。 何か手が必要になった時はいつでも声をかけてください、必ず力になりますので」
「ああ、なんかあったら頼むわ。 ミュー達も1ヵ月もすれば帰ってくるだろうし その頃にまた来るよ」
こうして、帝国が建国されて以降数百年にわたって繰り広げられていた獣人達への迫害は 現時点を持って無くなったと見ていいだろう。 今後 帝国人がどのような道を選んで進んで行くのかはわからないが、生き抜く道筋はちゃんと残っている。 加護の力を失った事による戦力の低下は著しいが、現状を弁え 今まで隷属していた獣人達に頭を下げ、魔物から守ってもらえるような関係を築くことが出来れば 人間種特有の技術力を持って対等な関係まで持っていくことが出来るだろう
出来れば…だけどね
恐らく皇帝も含め、多くの貴族はこの事を認めないだろう そしていろんな所で敵を増やし、滅んで行くのだろうな
まぁ自業自得としか言いようがないな
しかし これでやっと懸念していた事案を片付けることが出来た。 異世界人を兵器にして戦争だなんて付き合ってられないならな。 神託があった事は 他の国や権力者には良い感じで牽制になるだろうとも思っている。 限度を超えた悪には神罰が落ちる… これからは代々伝承されていく事だろう
俺の寿命が何百年、何千年あるかはわからないが 何年経てば、伝承が捻じ曲げられ アホな事をする奴が出てくるか見てみるのもいいかもしれないな
さーて、学生とはいえ 菓子職人の卵を保護できたんだ、これからの食生活は期待できるな。 嫁はいるけど一向に仕事が片付かなくてやってこないけど、寿命を考えればそのくらいきっと誤差の範囲だろう
この世界の管理人なんていう面倒なお仕事はアイシスに全部お任せして、俺は当初の予定通り のんびりと楽しく暮らしていけるよう整えないとな
さぁ! 俺のスローライフはまだまだ始まったばっかりだぜ!
長い間ありがとうございました
次の話も色々と構想中です、まとまったら投稿したいと思います。
こちらは連載中です
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