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アルカイト王国南東部に位置するバートリー伯爵領 その領都グリモア
「今聞こえた声は創造神様なんですよね?トーヤさんからは優しい女神様だと聞いていましたが…」
「それだけ帝国が行った事は 許されない事だったのですわね。 どちらにせよ 我が国では獣人を差別する慣習はないので大丈夫でしょう」
ミラとアリーナが、たった今聞こえていた神託に対し驚きの声を上げていた。帝国で騒ぎを起こすとは聞いていたが、これ程の物だとは思っていなかったようだ
「これは 近い将来、この領にも多くの獣人が流れて来そうですね。 ある程度の対策をしなければいけませんわ、 会議が必要ですね」
「わかりました、伯爵様に伝えてきますか?」
「いいえ、とりあえず食事の時でいいでしょう。ミラさんは流民が来て困る事、何が思いつきますの?」
「そうですね、私がいたルインズでは 冒険者になれば仕事には困らないけど、宿屋が少ないので 寝る場所が足りない感じはしてましたが、グリモアのそういった事情にはまだ疎いので…」
「そうですか…仕事に住む場所ですね。この町は比較的魔物被害は少ないので、冒険者でもそれほどの仕事量はありませんわ。 商人は多く出入りするので宿屋はそれなりにありますが… これもお父様と話し合いしないと、ですわね」
『トーヤ様、先ほどの神託 ご希望に添えるような態度を取れてましたでしょうか?』
『ああ、良い感じで威厳があり尊大な感じはしたよ ありがとうね。 俺はこれから異世界人と接触してくるよ』
『承知いたしました。それでは後程』
「なんだ?どういう事だ!なぜ我が国が神罰を受けねばならぬ!」
儀式召喚が行われた大部屋では、護衛をしていた近衛兵が鎧の重みを受け止められなくなり 全員その場で倒れてしまった。 魔術師団の面々も戦々恐々としていた
「魔力が…私の魔力が感じられない! なぜなんだ!」
んじゃ 俺の出番だな。 アイシスの威厳を損なわないよう、人間にとって格上に見え 逆らい難い風貌に見える白い翼を出して その部屋に入った
「お前達帝国人が 長年に渡って行ってきた行為に対する罰だと神託にあっただろ? 残念だがお前達はもう救いようがない状況だ。諦めるんだな」
「誰だ?お前…は? 人間じゃ…ない?」
皇帝が一国の主人としてあり得ないほど狼狽している、こんなんで皇帝陛下とか…小物過ぎるだろ
「そんな口を聞いて良いと思ってるのか? 俺は創造神アイシスよりも上位なんだがな」
「は…? そんな馬鹿な」
「まぁお前達の事はどうでもいいんだ、奴隷から解放された獣人達にボコボコにされる未来が待ってるだけだからな。 さて、それよりも」
未だに呆然としたまま事の成り行きを見ていた異世界人を見る、ふむ 黒髪なんだな、地球でいう所のアジア系な顔立ちだ
「異世界から召喚された異世界人よ、突然色々起こって訳が分からないだろう。 諸々の説明と、必要なら保護する事も考えている。 とりあえず場所を変えないか? この場所はとても危険になる」
「え? あ はい、説明してもらえるなら助かります」
「よし、それじゃあちょっとこっちに来てくれ」
異世界人を連れ、召喚の間…と言っていいのか、魔方陣が描かれていた部屋を出て 異世界人を小脇に抱え空を飛ぶ
「うえええええ?ちょっ!」
「大人しくしてないと落ちるぞ? 落ちたらきっと痛いだろうなぁ」
「痛いで済むかなぁ」
上空から帝都を窺うと、大勢の獣人達が群れを成して移動していた。 その先頭はミューだ
「ミュー、俺の用事は終わった。 後は好きにしていいぞ、ただし…」
「大丈夫ですよ、我ら獣人は 帝国人と同じとこまで落ちる程落ちぶれていません」
「だろうな、とりあえず城にある食糧庫だけは押さえろよ 全員腹いっぱいにさせるには相当な食料が必要になるからな」
「わかりました!」
仰々しく頭を下げるミュー、 後ろに続く獣人達は目を見開いているけど放っておこう
「さて、獣人達よ 長い間ご苦労だった。 これからは自由だ! 生きる事を満喫するように、ただ…自由と横暴は違うからな そこだけは間違わないように。 このミューに続いてまずは腹いっぱい飯を食ってくれ。 ミュー、後は任せたぞ」
腹いっぱいの飯…と聞いたからか、獣人達のテンションは爆上がりだ。 異世界人を小脇に抱えたまま帝都から出て、草原に降り立ち 異世界人を解放する
「さーて、とりあえず知りたい事も多いだろう ここで少し話そうか。 俺はトーヤ、この世界の管理人的な立場の者だ。 まず質問があれば受け付けるぞ?」
「あ、はい。 俺は上杉謙二といいます、日本という国に住んでました」
「ええ? 日本人なのかーい!」
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