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グラスは公爵邸に戻り、自分が使っている執務室に入った
「ふぅ、とりあえず即決されなかっただけ 最悪は回避できたかしら」
「お嬢様、少しお休みになられては」
顔色の悪いグラスを見て侍女が心配そうにしている
「今を乗り切らなければ 公爵家どころか、全ての帝国人が命の危機を迎えるわ。考える事がありすぎて眠れないわね」
「そうは言いましても、お疲れになりすぎているから いい案が出ないのではないでしょうか」
「そうかもしれないけれど… いえ、やはり少し休むわ。 お兄様に話だけは伝えておいてちょうだい」
「承知いたしました」
侍女が出て行ったので、グラスも執務室を出て自室に向かう
「全く…歴代の貴族達はどうして獣人奴隷なんて制度を作ったのかしら、本当に疲れてしまうわね」
着替えもせずに そのままベッドに倒れ込み、そのまま目を瞑った
周囲に人里が無く、ちょっと遠くに魔の森が視認できる土地での拠点作りを始めた。 一時的とはいえ 500人以上を収容する規模の拠点なので、ちょっとした村になってしまうな
しかも 一時的…とはいえ、もしかしたらそのままこの場所で暮らす…なんて獣人がいるかもしれない。 でもまぁ適当でいいか、 不十分だと思うのなら自分達で改造すればいいしな
周囲はすっかり暗くなってきているが、お構いなしに作業を始める
まずは地下水脈探しからだな、先に井戸を数箇所作って 井戸が中心になるように周囲を防壁で固めよう
「うん、井戸を掘ったとしても 桶も無ければ滑車も土台もロープもないじゃん!」
水脈は結構あちこちに走っていて、その中でも浅い水脈を選び 魔法で掘り進んで行き 崩れないよう固める。 そのままだと落とし穴状態なので、地上から1メートルほどの高さまで延長させる
とりあえず4箇所井戸を掘ったので、井戸を囲むよう半径500メートル程度の円形に防壁を築く。 簡易的な物なので、魔法で土を集め、それを固めただけの無骨な仕上がりになったけど気にしない
人が出入りできる門を2箇所作っておいた。 後はそれぞれ住む側が意見を出し合って改善すればいいかな。 いつまでも領都の脇にいたら ゆっくりできないだろうし、テントごと引っ越しさせればいいだろう。 安直だが 獣人の生活習慣は知らない事の方が多いからな
門は鉄で作り、引き戸のようにした。 内側からつっかえ棒で鍵をかける感じだ
さて、獣人なら人間より遥かに夜目が効くだろうし 今すぐ移動したいって奴がいれば、もう移動を開始しても良いだろうな 領都に戻ってガッシュと相談だな
というわけで、 結局ほぼ全員の獣人が すぐに行動したいとなったので テントを担ぎ夜間の引っ越しと相成った。 夜逃げではない
残るのは夜目の効かない者と、動くのが困難な怪我人 合計30人ほどだ。 これらの者は 夜が明けたら怪我人を担いで移動する事で話が着いた
領都から新たな拠点までの距離は5~60㎞ほど、奴隷生活で衰えていても 獣人の体力なら3時間もあれば到着するので、 唯一場所を知る俺が先頭に立ち 移動を始めた
現地に着き、井戸の周辺にテントを建てるよう言いつけると 俺は急いで自宅へ戻った。 ロープの代わりになりそうな丈夫な蔓探しと 桶と滑車を作るためだ。 桶は銅を使うといいんだっけか…
品質に拘っていないため、ささっと制作してすぐに拠点へ戻り 釣瓶とその土台を木材で作る。 水さえあれば数日暮らすだけなら大丈夫だろう
大型の竈を作って 薪に使う木材を山積みし 大鍋3個と肉野菜をマジックバッグを持ったガッシュの仲間に持たせる
「それじゃあ俺とガッシュは領都に戻って、朝飯食べてから怪我人と共にこっちに来るから 後は任せるな。見える範囲に魔の森があるから、元気な奴がいれば狩りに出てもいいな」
「了解っす!任せてください!」
名前は知らないが 若くて元気な獣人だな…
「じゃあガッシュ、担ぐぞ」
「は、はい」
いつものように小脇にガッシュを抱え、領都に向けて飛び立つ。俺が飛べばほんの数分で着くからな
なんだかんだと夜明け直前に色々と終わらせる事が出来て良かった。 空が白みかけてきたので大鍋でスープを作り始める、 同時に鉄板で肉野菜炒めを作り始めた所、匂いにつられたのかゾロゾロと獣人達が出てきたので 怪我人も含めて朝食にする
「ガッシュ、場所は把握してるよな?」
「大丈夫です、迷う事はないですね」
「そっか、それじゃあ移動の方は任せるな。 一応予定日までは2日あるし、今日は1日仲間達についててやってくれ」
「わかりました、何かあれば連絡しますね」
「ああ、そうしてくれ」
30人程とはいえ、獣人達はもりもり食べるので じゃんじゃん焼いて行こう
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