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組合で買い取り処理をし、他の獣人達が戻るのを待ってから いつもの食堂に向かった
「今日は重大な発表がある! しかし、この事は他言無用で頼む」
ガッシュが仲間の獣人達に向かって話し出す。 先ほど貸してやったマジックバッグの事だ、 取り扱いには十分な注意が必要だからな、徹底周知していこうと考えたからだ。 それから帝国貴族のドルス家についても話をした
「確かに皆が嫌がるのはわかる、俺も嫌だからな! だが帝国と俺達獣人との関係性から コネを作るのは無理に等しい状況でふってわいた話なのだ、 向こうの情報を集めるためにも今後連絡を取ってくるだろうドルス家に対し、険悪な態度を取らないようにしてくれ。 その情報は今後、同胞を助けるために役立つ事もあると思う。 みんな頼むぞ!」
難しい話はすぐに終わらせ、コカトリスで得た収入で宴会が始まった
その頃、バートリー伯爵家では ミラの着せ替え大会が開かれていた
「まぁまぁ 良くお似合いですわ。 どうですか?お母様」
「ええ、とてもいい感じです。 やはり護衛なのですから動きやすい服でないといけませんからね」
黒を基調とした執事服…のような、一応戦闘も考慮されているらしい衣装を身に纏ったミラは ずっと苦笑していた。 ミラの見た目…身長160センチ位でスレンダー体型、凛々しい訳でもなく 美しいと表現される訳でもなく、どちらかというと可愛らしいと言われる顔立ちで 今回の衣装は男装である。 可愛らしいのに男装というギャップに、この母子と侍女達は萌えていたのであった
「それにしても貴女の持っているその短剣、とても美しいですね。 刀身を見せていただいても?」
「あ、はい どうぞ」
ミラは腰に下げていた短剣の1本を、鞘ごとセリーナに渡す。 藍色の刀身が姿を現す、 片刃になっていて 峰の部分はノコギリのようにギザギザしているサバイバルナイフを長くした感じだ。 刃の部分が40センチほどある
「綺麗な色ですね、これの素材は何を使っているのです?」
セリーナが まるで宝石を眺めているかのような目で剣を見つめながら質問する
「素材は詳しく聞いていません、 でもミスリルに匹敵するってトーヤさんが言ってました」
「ミスリルに匹敵…ですか、 このレベルなら宝剣と呼んでも全く問題にならない剣ですね」
「トーヤさんからもらった剣なので、この剣に負けないよう腕前の方も鍛えていきます!」
「そうですか、トーヤさんから… ならば、これを買い取るといっても譲ってはもらえませんね。 あきらめましょう」
どうやらこの剣を狙ってたらしい… ミラはホッと息をついた
「お母様、次にトーヤ殿がいらっしゃった時に聞いてみましょう。 もちろん値段次第ですけど」
「そうですね 私も護身用の短剣がこのように美しい剣ならば、気も引き締まると思います」
「この深い青、私も欲しいですわ」
セリーナは名残惜しそうに短剣をミラに返した。 さすがにトーヤからのもらい物を取り上げるような真似をすれば、今後の付き合いに多大な影響が出そうなので とても欲しいけど頑張ってあきらめたようだ。 それに刃渡り40センチもあると、貴族令嬢 伯爵夫人にはとてもじゃないが帯剣できないのもあきらめた理由の一つだっただろう
テーブルの上に置かれた2本の短剣をチラリと目をやってから、さっきと違う趣の服に着替えているミラを眺める。 伯爵家の女性陣は男装の麗人が大好きのようで、今はまだ可愛らしい顔立ちだけど、今後の成長で麗しくなる事を願う事にした
クリモの町の住宅街、元は商家の屋敷だった所を買い取って拠点としたドルス家の面々は会議中だった。 准将とその部下の行動範囲、行動パターンを監視していた部下が戻ってきたのだ
「報告します。 監視の期間が短いので断定はできませんが、魔の森側の門から組合 そこから岩熊の宿に続く道沿いにある露店、この範囲でしか行動してる気配しかありませんね。 周囲をチラチラと警戒しながら歩いているので 行動範囲を広げるという事は極力してないように見受けられます」
「そうか、ご苦労だった。 まぁ俺とグラスさえ鉢合わせしなければ、気づかれることはないだろう。それよりも、例の獣人 ガッシュといったか、あの者と一緒に居たという若い男の方が気を付けた方がいいだろう。 肝の座っているグラスと、精鋭である護衛のお前達が睨まれて動けなくなるとは… 現状では敵に回すのは良くないだろうな」
クロードが深く息を吐きながら言う
「恥ずかしい話ですが、睨まれた時には息もできないくらい体が竦んでしまいました。 アレは敵にしてはいけません」
グラスが思い出したかのように震える
「ではどうすればいいと思う?」
「まずは先日のお詫び…という事で、獣人に ガッシュに連絡を取りたいと思います。 話し合いの邪魔をして怒らせてしまったようなので…と。 当然当事者である私が向かいます」
「いや、まずは連絡を取って会談の日程を決めた方がいい、向こうにも都合があるだろうし こちらの言い分だけで決めたら
まずい気がするな」
「そうかもしれませんね…そういえば『貴族は自分勝手で~』などと言われていました」
「とりあえず行動は早い方がいいだろう、明日にでも伝令を出すことにしよう。 内容は今日の事のお詫び…という事で、会える日を教えてもらう という事で行ってもらう」
「承知しました。 向かうのは朝でよろしいので?」
「宿に待機してる者がいるそうだから、時間は空いた時で構わんぞ」
「わかりました」
今日も夜は更けていく