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「ごきげんよう、またお会いましたわね。 ガッシュ…といいましたね?」
「お嬢さんか…案外早起きなんだな」
侯爵家の令嬢さんはガッシュが目当てだったみたいだな、 俺の方には目もくれない さすが貴族令嬢のスルー力は半端ないな
「ガッシュ、なんなら一旦席をはずそうか?」
「いえいえ、トーヤさんより優先する者はないですよ。 悪いがお嬢さん、俺はこの方と話をしてるんで 外してもらえないか?」
「へぇ、貴方が私よりも優先するなんて興味深いわ。ご一緒してよろしいかしら?」
自己中で空気読めないのはさすが貴族令嬢って感じだな。 我儘するのが日常的な生活をしていた弊害だろう。 奴隷を解放したあたり、少しはまともな貴族だと思ったんだが、まぁこんなもんか
とりあえずこれ以上邪魔されるのも癪なので、威圧を込めて睨みつける
「邪魔だから立ち去れと言っている、それともなんだ? 俺に喧嘩売っているのか?」
お嬢さんも護衛も 俺の威圧に当てられて青い顔して棒立ちになっているが、お構いなしに続ける
「喧嘩売ってるっていうんなら買ってやるぞ、 覚悟はいいか?」
そこまで言うと、やっと再起動したグラスが反応した
「い、いえいえ そんなつもりはありませんわ。 本当に邪魔だったようなので、今日の所は下がる事にします。 ですが、もしよかったら話し合いの時間を割いてくださいませ。 話…というか相談事があるのです」
「相談事?面倒を押し付けられる未来しか見えないな。 帝国貴族は自分の都合を押し付けるだけのボンクラばかりだと聞いてるんでな 色々噂話を集めてみな? 帝国貴族に対する悪い話は山ほどあるから」
「それは誤解です、確かにそのような貴族はいますが 全てがそのような貴族ではないのです」
「そうかい? ガッシュ達を解放するって約束を守ったから 少しはまともな貴族だと思ってたけど、結局今やったことだって 自分の都合をただ押し付けただけだろう? そんな奴と話し合いなんてできるわけないだろう、 押し付ける事しかしないんだから」
「むぅ…」
「ガッシュ、場所を変えよう。 こいつらは人の話を聞くなんてことは出来ないんだよ、 いつまでたっても立ち去る気配もないしな」
「わかりました。 それでしたら森に入りましょうか、 それなら邪魔は入らないかと」
「そうだな、 そうするか」
ガッシュと共にグラスを置いて森側の門に向かって歩き出した
「お嬢様…」
「仕方ありません、戻りますわ」
「了解しました」
「彼が何者なのか調べた方がいいかもしれませんが、むやみに探って敵対するのは危険ですね。 お兄様に報告して指示を仰ぎましょう」
「はっ」
ガッシュと森に入り、ささっと中層までやって来た。 浅層だと冒険者が多く狩りをしていて 最悪流れ矢が飛んでくるのだ
「しかし貴族ってのは傲慢なのが多いな、何様のつもりなんだか」
「全くです、同族の人間種ですら道具扱いしてますからね。 意味が解らんです」
「しかしまぁ 帝国の貴族の中ではましな方なんだろうな、 ガッシュが気にしないんなら多少は関わって 帝国の情報収集のコネにしたらいいんじゃないか? まぁ関わりたくはないんだろうけど」
「うーむ、確かに帝国にコネなどないですからねぇ、あいつらは俺達獣人を使い捨ての道具だと思ってる連中ですから 交流自体ありえないですから… そう考えるといい機会なのかもしれないですね」
「まぁ無理しなくてもいいぞ?」
「はっきり言って嫌ですけど、それでも今後の同胞のためって思えば我慢できますよ」
ガッシュが拳を握りしめてニヤっと笑う。 強面でそんな笑い方すると…似合うじゃないか、 悪役っぽくて
「まぁそこは任せる。 アイシスが起こす予定の神罰に関しては機密事項だからな? 俺の事は多少話しても構わない、 話さないと納得できない事もあるだろうしな。 牽制くらいにはなるだろう」
「わかりました。 せっかく森に来たんで、何か狩っていきますか?」
「そうだなー ガッシュがちゃんと武器を使いこなせてるかどうか 見てみるか」
「では、まいりましょうか」
そのまま夕刻前まで狩りと採集を2人で行った
「そうだ、ガッシュにこれを貸してやるよ」
狩った獲物を亜空間倉庫に収納してて思ってたんだ、 獣人は腕力があるから大きな獲物でも引きずって運べるけど やはりマジックバッグはあった方がいいって
「これは…マジックバッグですか?」
「ああ、試作したやつでな 容量はルインズにいた狼が5~6匹入るくらいなんだが、時間遅延付けてるから食い物入れても腐らなくていいぞ」
「本当ですか? 国宝級じゃないですか! いいんですか?」
「もちろんいいぞ、ただ 見せびらかすとやっかまれて面倒事が起きるから 上手に使ってくれよ」
「いやー助かりますよ 人数いるからたくさん狩らないと宿代も出ないですからね」
「ちょうどミラに持たせてやろうと思って作ったんだ、これは練習用に作ったやつだから見た目はひどいが、中身は間違いないから安心してくれ」
「十分ですよ!ありがとうございます」
「それじゃあ今日の獲物を入れるとするか」
亜空間倉庫に入れてあった物を入れ替えして、今日一番の獲物だったコカトリスだけ 担いで行くことにした。 これだけでも十分すぎる収入になるからだ
「よし、そろそろ町に戻るか」
「わかりました」
クリモの町の組合を目指して歩き出したのだった