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クリモの町でガッシュとドルス公爵家が接触をしていた2日後、 定期的に訪れるとジルに約束させられたため 朝からルインズに向かっていた。 ジル達受付嬢の狙いは当然お菓子であった
「おはようロスター君、これよろしくね」
いつも通り朝一で買い取り窓口にいるロスター君に声をかけ、角と牙を納品する。本当この町は角と牙の需要が高いので、何個売っても値下がりしないのである。 まぁこの町の周囲で採れる素材じゃないからね
「おはようございます、査定しますね」
「トーヤさーん、お客さんが来てるよー」
おっと、ジルの所に行く前に声がかかった って、客?誰だ?
ロスター君に後で取りに来ると伝えてジルの窓口へ向かうと そこにはミューがいた
「トーヤさん おはようございます。 ミラは元気ですか?」
何やら疲れた顔をしているミューも声をかけてくる
「どうした?げっそりして ミラなら無事に伯爵家に送り届けたぞ」
「クリモから休まずに走ってきたので、さすがに疲れました」
「なんだか知らんがお疲れさんだな。 俺に何か用事か?」
「はい、ガッシュからの伝言を持ってきました、 今 窓口に頼んだところだったんですが、ちょうどトーヤさんが来てくれたので安心しました」
「ガッシュからの伝言か、 それじゃあっちのテーブル席に行こうか。 ジル、これはお土産だ 今後もよろしくね」
「まかせてー いつでも待ってるからー」
カウンターにクッキーを置いた瞬間、相も変わらず素早い動きでクッキーを掴み取る。 平常運転だな
いつものテーブル席に着き、エールを購入してミューに渡す
「それで? ガッシュがなんだって?」
「はい、帝国関連で 直接話がしたいとの事です」
「帝国関連か…そういう事なら気になるな、いつ来て欲しいとか言ってたか?」
「早めでお願いします」
「そっか、んじゃ今から行くか。 ミューも疲れてるだろうから抱えてやるぞ?」
「ぜひお願いします!」
エールをぐいっと飲み干し、2人で町の外に出てミューをお姫様抱っこで抱え上げる。 2人いるなら小脇に抱えるけど、1人ならこっちの方が安定するんだよな
「んじゃ行くぞー」
「どんと来いです!」
人目が付かない所まで軽く走り、いつものように隠蔽かけて離陸。 クリモまでおよそ30分の空の旅だ
クリモの町の門から死角になる場所に降りて隠蔽を解く。 門から入場して組合まで歩いていく、 ミューも一晩中走ってきたにもかかわらず 普通に歩くあたり、獣人の体力の多さを感じるな。 人間じゃ無理だもんな
まだ早朝だから、もしかしたら狩りに行く前に捕まえられるかもしれない。 もし出ていった後だったら一度帰宅して夕方に来ればいいだろう
組合に着き、中を覗いてみると いつもの獣人軍団がいた
「よぉガッシュ 今着いたぞ」
「おおトーヤさん! さすがに速いですな。伝令出したの昨日なのに」
「朝 組合行ったらミューがいたんだよ。 そのままこっちに来たんだ」
「それじゃあちょっと編成を変えるんで、少し待っててください。 ミューは宿に戻って寝てていいぞ」
ミューは宿に戻り、ガッシュが俺と話をするために抜けるので 再編しているようだ。 待つ事10分ほど、狩りに出る獣人達に手を振って見送り ガッシュと組合を出る
「こんな時間から話が出来る場所なんてあるのか?」
「いつもの酒場は、さすがにこの時間は開いてません。この先の商店街に良い所があるんですよ。 見通しがいいので盗み聞きする奴がいたら すぐ気づけるし、周りが活気あるのでこっちの声はかき消されるんで 内緒話にはもってこいなんですよ」
「そっか、その辺は任せるよ」
目当ての場所に向かいながら、途中の露店で朝食を購入 商店が立ち並ぶ空間に、テーブル席が設置されてて そこに座って買った食料を広げた
「それでですね、2日前にこの町で 帝国公爵家のお嬢さんに会ったんです」
「帝国公爵家のったらアレ? ゴルドアプル探索させてた奴か?」
「そうです、ドルス公爵家ですね。 偶然出会ったもんで警戒して声をかけたんです。 そしたらこの町にいる帝国軍人達を調べに来た…と」
「帝国内で分裂でもしてるのだろうか、何か弱みでも探りに来たとか? でも、それにしたって公爵家が直々に来るってのもおかしいな」
「そうなんです、何か調べるんだったら斥侯を出せば済みますからね。 わざわざお嬢様と、多分その兄だと思われる男がいたんで おかしいと思い連絡したんです」
「なるほどなぁ」
串焼きの肉に食いつき、一旦話を止める
「帝国内部で派閥争いでも起きて、自領に居たら危険だったとか? 偵察の名目で避難してきた…だったりしてな」
「うーん、帝国の情報がないですから何とも言えないですが ありえるかもしれないですね」
「軍人連中はどうなってるんだ?」
「あいつらは素材集めもしてるんでしょうが、宿代を稼ぐのにかなり無茶な狩りをしてますね。 一番偉そうな軍人は、高級宿からあまり外に出ないで 昼間から酒を飲んでるらしいので、金策が大変なんでしょう。 部下の連中が哀れに見えますよ」
「ボンクラが上司だとそれがあるからな、ん?誰か来るな」
俺の目線の先には普通の平民服を着ているが、見覚えのあるお嬢さんが2人の部下を従えこちらにやってくる。 ガッシュも振り返り確認すると
「あ、あれが公爵家のお嬢さんです」