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クリモを拠点に活動する獣人20人を纏めるリーダーのガッシュ、今日は非番であり 食料や消耗品の買い出しに商店街をうろついていた。 ふと前方を見るとフード付きのマントを羽織った男女2人と、軽装鎧を纏った剣士が2人歩いているのが見えた。 ガッシュも歩いているのでどんどん距離が縮まっていき、フードの中の顔が見えた
「あ? アンタ… 帝国貴族がこの町で何やろうってんだい?」
「なんだお前は」
フードを被った背の高い方が反応する
「なんだはないだろう…ゴルドアプルを届けてやったのを忘れたのか」
そこまで言ってフードを被った小さい方の少女が反応した
「あら、貴方あの時の」
「ほほぅ、そなたが取りに行ってくれた者だったか。 あの件では世話になったな、礼を言う。 ところで、我らが帝国人というのは内密にしてくれないか、忍んで来ているのでな」
「先に来ていた軍人と合流しに来たのか…」
「ほぅ?この町にいる帝国人を知っているのか?」
「ああ 知ってるさ、王都で何をやったのかも 誰を敵に回したのかってのもな」
「王都でのことも知っているのか」
「もちろんだ、しかしまぁ内密というなら黙っててやろう。 帝国人と関わる気は全くないし、どの道帝国は まもなく大変なことが起こるだろうからな」
「大変な事だと?それはどういう事だ」
「それを教えてやる義理は無いねぇ。 俺も忙しいんでね これで失礼するぜ」
「待ってくれ、せめてこの町にいる帝国人の居場所だけでも教えてくれないか。我らはその者らを調べに来たのだ」
「調べに…ねぇ 俺としては拠点にしているこの町で問題を起こされるのは勘弁なんだが?」
「問題を起こしに来たわけではない、 あやつらを監視しに来たのだ」
「監視ねぇ ま、騒ぎを起こさないってんなら教えてもいいさ。 知っての通り 俺達獣人は、あんたら帝国人とは関わり合いたくないから 今後はそのつもりで接してもらえればってのが条件だな」
「それについてはこちらも同意する」
「帝国軍人たちは、組合の正面にある高級宿『岩熊亭』って宿にいるぜ。 偉そうなおっさんと配下らしい4人、合計5人だな。 浅層と中層の境目辺りで儀式魔法の素材と言われている『スノードロップ』っていう花を集めている姿を目撃されているな」
「ふむ、岩熊亭だな ありがたい。 情報料を払わねばいかんな」
「それはいらねぇよ。 一応あんたらには 解放してくれた件があるからな。それでチャラって事で」
「そちらがそれでいいのなら構わないが… できれば今後も協力してくれないか?」
「さっきも言ったが、帝国人とは関わりたくないんだよ。 まぁ緊急時ってんなら仕方ないと思うが」
「そうか、では緊急の案件があったら声をかけさせてもらう。 俺はクロードだ、知っての通りドルス公爵家の者だ 名を聞かせてくれないか?」
「俺は獣人同盟のリーダーをやってるガッシュっていうんだ。 一応公爵家でゴルドアプルの依頼があった時には名乗っていたんだが、 まぁ当時は奴隷だったけどな」
ここまで黙って聞いていたグラスが口を挟んできた
「貴方とはいずれゆっくり話がしたいわ、帝国でもトップクラスの冒険者が全滅したのに、なぜ貴方達は全員生存して帰ってこれたのか。魔の森の中心部で何かあったのでしょう? 近いうちに食事にでも招待させていただくわ、 貴方が拠点にしている宿も教えてもらえるかしら?」
「食事ねぇ…俺達獣人は質より量が大事なんだよ、そこは覚えておいてくれ。 俺達は『牙狼の宿』を拠点にしている、常に仲間の誰かが残っているから連絡はすぐ取れるはずだ」
「承知したわ、ではまた会いましょう」
ガッシュは公爵家の面々と別れ、買い物の続きをしようか迷っていた
「うーむ、これはトーヤさんに報告した方がいいのか…さすがに中心部の家までは行けないからルインズに行くか、ミラがバートリー伯爵家に行ったはずだからそっちの方がすぐに連絡つくのか…どっちがいい」
迷った挙句、買い物を中断して宿に戻る事にした。 やはりルインズの方が近いし、向こうの組合に誰か向かわせて伝言を頼んでもらおう。 みんなが戻ったら誰が行くのか話し合いだな…
その頃、拠点に戻ってきた公爵家の面々は、さきほどガッシュからもたらされた情報を精査するため 2人を岩熊亭に送り込んだ。 高級宿だという事で それなりな装備を身に付けさせ、 いかにも稼いでいそうな優秀な冒険者という風で向かわせた。 狙いは当然准将以下5名が泊っているのか確認と、2~3日滞在させて 行動範囲を調査するためだ
「しかし、知りたかった情報があっさり手に入りましたね お兄様」
「そうだな、 それよりもゴルドアプルと引き換えに解放した獣人奴隷がこの町にいた事も驚いたな」
「ええ、それに何やら 色々と知ってるみたいでしたわ」
「今後は懇意にする必要があるな。 奴隷解放したのが我が家だというのが救いだったな、 帝国人に対する嫌悪感はあるようだが それほど刺々しい印象はなかった。 岩熊亭にいる軍人連中の動向が解ればまた接触しようと思っている」
「その役目、私がしますわお兄様。 多少なりとも恩を感じてくれているなら、当事者である私が出た方が良いと思います」
「そうだな、その時は頼むよ」
ちょうどこの時、クリモの町の出来事を知らないトーヤは、 のんびりと畑の雑草をむしっていた