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組合で待つには時間がありすぎるので、久々にルインズの商店を見て回ることにした。 やはりトマトはないね 伯爵領の領都からここまで馬車で4~5日程度だけど、やはり保冷車とか冷蔵車が無いから 道中で痛んでしまうのだろう。 時間遅延効果の魔導具は国宝級みたいだしなぁ それが一般的になれば物流大革命になるんだろうけど…現状の魔法技術では遥か未来の話になるだろう。 仮に俺がマジックバッグを量産したとしても、王家や貴族がまず買い占めるのだろうな
ブラブラと町内を見物しながら時間を潰し、 さすがに見る所が無くなったので組合の定位置に座りエールを飲む。 しかしアレだ ルインズの穏やかな雰囲気はいいね。 狩場は南の森しか無く、そこに生息する魔物も強い者が少ないし ちゃんと住み分けされてるから難易度の調整が楽で、冒険初心者向けの町だ。 更に言えば、俺が一番最初に訪れた町でもある。 もうすっかり地元気分になってるな
温めのエールをセルフサービスで冷やして飲む、 やっぱ冷たい方がいいよね。 ふと見ると、ミラが入ってきて俺と目が合った、 あいつ組合に入ったら最初にこの席を確認してるのか?ってくらいこっちを見てきた
「トーヤさん!いつ来たの?」
「昼過ぎくらいかな、 とりあえず買い取りは済ませて来いよ」
「わかったー」
買い取りを済ませたミラがやってきた
「夕食どうする? 宿で食べてもいいし、あそこのご飯おいしいから」
「いや、今日は特別に良い物食べさせてやる。 とりあえず町から出るか」
「じゃあちょっとこれを付けてくれ」
出したのはスポーツタオルサイズの手拭いだ、 これを後ろから目隠しの様に巻いて縛る
「え?ちょっと何?」
当たり前だけど、急に目隠しをされて動揺を覚醒ない様子のミラ
「ミラは口が堅いし信用はしてるけど、まぁ知らない方がいい事もあるもんでな。 少しばかり大人しくしててくれ」
目隠しをした後、ひょいっとお姫様抱っこで担ぎ上げる
「ひええええ! 一体何が起きるの?」
「危ないことは無いからじっとしててくれな」
そう声をかけ、自分とミラに隠蔽魔法。 そしてグリモアに向けて走り出した。 向かい風でひどいことにならないよう目の前に障壁を展開、 空気抵抗が少なくなるよう三角錐の形状にしてそのまま離陸
あまり高度を上げると普通の人間種じゃ寒いだろうから、大体地表から2~30mを維持して移動
そこまで速度を上げていなかったけど、30分ほどでグリモアに到着した。 門の近くを確認し、人目が無いので隠蔽を解除。 そして目隠しを取ってやる
「着いたぞ」
「着いたって…え? ここどこ?」
「大きな声出すな、 ここはグリモアの町だよ」
「グリモア? バートリー伯爵領のグリモア?」
「そうそう それじゃあ夕食にするか。 町に入るぞ」
「う、うん… グリモアって馬車でも数日かかるはずじゃ… もう何が何だか」
「気にしたら負けだ。 めしめし」
「はーい…」
「さてさて、飯屋はどこかねぇ」
「そこからですか! え?知らないで来たの?」
「何度か来たことはあるんだけど、この町で飯を食った事はなかったな」
「はぁ、そういう事ならせっかくだし、おいしそうな店を探しますかね」
20分ほどうろついて おいしそうな匂いを出してた割と高級そうな店に入っていった。 そして トーヤ達が店に入っていくまで2人を見つめてた警備兵が、 伯爵邸に走っていくのだった
「これはなかなかおいしいな」
「うんうん、ルインズとはやっぱり味付けって違うんだねー」
いつもより夕食の時間が遅かったため、 少しの間黙々と食べ続ける
「ところで、なんで急にグリモア?」
「ちょっとトマトを買い付けようと思ってな、ジルにそんな話をしたらミラも連れてってやれって」
「ジルさんが? なんだろ急に」
「ルインズ以外の町を知らないから、他の町も見せてあげてくれって言ってたぞ」
「心配しすぎだよぉ あの人はもう」
食事も7割ほど進み、空腹感も落ち着いたのか 食事の手が止まり会話が増えてきた。 そんな時であった
「トーヤ殿? グリモアに来たのなら我が家に声をかけてくださいまし」
「ようアリーナ、 こっそり来たんだからそこは察してくれないとな」
「いいえ、 我が家に来て下されば食事くらいいつでも提供しますわ。 ところで、こちらの方は?」
テーブルの空いた席に座り込んだアリーナが ミラの方を見て口にする
「この子はミラといって、ルインズの冒険者だ。 色々あって面倒見ている弟子1号だな。 ああミラ、こっちは領主の娘でアリーナだ」
「ええ?領主って事は伯爵様のお嬢様? あわわわ」
ミラがおもしろいほど動揺し始めた
「ミラ、落ち着け。 いつも言ってるだろ? 平常心平常心 どんな時もだ」
「アリーナ・フォン・バートリーですわ。 トーヤ殿のお弟子さんとなれば 私にとっては姉弟子ということになりますわね。 よろしくお願いしますわ」
「あああ姉弟子って一体?」
「ああ、アリーナと伯爵家の侍女数名をちょっと指導してるんだよ。 最近始めたんだけどな」
「そうだったんだ… あ、ミラといいます どうぞよろしくお願いします」
ミラとアリーナがかち合ってしまった。