39
「トーヤ殿 先日の話を覚えているか? トーヤ殿の正体について語ってくれるという」
昼食が済み、食器が片付けられ お茶が出てきたところでラジウスが話しかけてきた。 まぁ人間ってやつにとって、魔の者は悪って固定概念あるからな 俺も人間だったしそこら辺は良くわかる。 俺の素の姿 魔人の姿を見てすぐに信用できるかって言われたら、間違いなくNOだ。 なので天使版の姿を見せ、伯爵家を味方につけて 今後王国内で何かあった時に働いてもらえるよう引き込もうか
「もちろん覚えている。 俺も言ったよな? 人は知らない方が良いって事もあると…その辺の覚悟はできたって事か?」
「それは我が家でも話し合って決めたよ。 それにトーヤ殿程の者を敵に回したくないというのが本音でもある」
「そうか…それじゃあ人払いを頼む」
「わかった」
ラジウスは頷くと、食堂に残っていた侍女と護衛をを全員下がらせたので 俺は立ち上がりイクシードからもらった魔力を纏いながら翼にかけていた隠ぺいを解いた。 純白なもふもふの翼…いまだにこの姿でいると似合わないと感じて照れる
「俺は創造神アイシスの上司にあたる者だ。 この大地でのんびり休暇というか、まぁ楽しんで生活しているんだよ。 人間同士のやり取りにはあまり関わる気は無かったんだけど、放置してたらのんびりできなくなりそうだったから関与した。 もちろんだけど、他言は無用だぞ?」
伯爵家は 目が飛び出そうなくらい見開いて驚愕している。 よく見るとガタガタと震えているようだ
まぁこの世界では創造神アイシスを祀る宗教があり、アイシスの逆鱗に触れる行いをした者や国には 過去に神罰が下ったこともある。 この世界では創造神アイシスは現存する神として語り継がれてるのだから、知らなかったとはいえ その上司にあたる者に対し、今までの振る舞いは普通に無礼だったと思っているのだろう
「おーい そろそろ正気に戻ってくれないか。 だから言ったんだよ、知らない方がいい事もあるって」
「はっ 大変なご無礼を! 失礼しました!」
ラジウス、セリーナ、アリーナが顔を青くして跪いた
「いやいや、今更だし普通でいいよ。 それじゃああまり見られたくないから翼は隠すな」
「我々はとんでもないことを…」
「な? 知らない方が幸せだっただろ? ま、今後の教訓にでもしてくれ」
「ト、トーヤ様 本当に失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
「だから普通にしろって言ってるだろ。 それにこの姿を見せたのにはそれなりに理由はある。 いい加減座ってくれ、伯爵が跪くなんて他の者が見たらおかしいと思われるだろ?隠したいんだよ 俺は」
「は、はい…」
伯爵家の3人は顔を見合わせながら席に着く
「今回の帝国の動きは、俺がのんびりするための障害になると判断した、だから少しばかり手を貸したわけだが… 今後 王国内で何かあった時には、あんたらの貴族としての立場を利用したいと考えている。 何か失敗して目立ってしまった時の隠蔽工作とかな、 どうだ? 俺に協力してくれたらこれをやろう」
そう言いながら亜空間倉庫から木箱に入れた砂糖を出した
「こ、これは?」
「これは俺が作った砂糖だ、ちなみにこれが この砂糖を使って作ったクッキーだな」
ついでにクッキーも出す
ラジウスは箱の蓋を開けて、砂糖を指で掬って舐めている
「これは…なんと甘い!」
アリーナがおそるおそるクッキーを口にすると クワっと目を見開いて咀嚼を繰り返す
「なんておいしいクッキーなのかしら!」
それを聞いたセリーナもクッキーを口にする
「うまいだろ? 俺の手作りだ。 アイシスも絶賛してるぞ」
「アイシス様と同じものが食べられるなんて…至福ですわ!」
アリーナは、先ほどまでの殺伐とした雰囲気を全て消してクッキーを食べている。 やっぱりおいしいは正義だよな!
「砂糖は俺が1人で栽培して作っているから、大量には渡せられないが 3~4か月に1回、量はその小箱程度ならやれるけど?」
「栽培してる…ですか。 どこに住まわれてるのですかな?」
「だから、普通に話せって。 俺が住んでいるのは魔の森の中心部だな、 ここなら人間は入ってこれないから」
「それでは失礼して… 魔の森の中心部なら確かに人は入っていけませんな」
「最近、一度だけ近くまでやって来た奴がいたけどな、 ちょうど見に行ったら魔虎に襲われてて半数は殺されてたけどね」
「残りの半数は?」
「獣人奴隷だった8人は俺が保護して、今はクリモで修行してるよ」
「ほほぅ その者達もトーヤ様の正体はご存じで?」
「まあね、その獣人達とも利害が一致しててね 協力関係にあるんだよ」
「なるほど…それでは バートリー伯爵家、今日よりトーヤ様のために働きたいと思う。いかようにも使っていただきたい!」
ラジウスが宣言すると、セリーナ、アリーナ共に頷く
「いやいや、何かあったら頼むって程度だからな? そんなに気を張らなくても大丈夫だ」
「いやしかし!トーヤ様の手伝いが出来るとはなんたる至福! 冗談抜きで何でも申し付けていただきたい」
「まぁ何かあったら頼むな。 一応俺はルインズで組合員としてうろちょろしてるから、 どうしても連絡したいことがあったなら ルインズの組合に言ってくれれば俺に伝わると思う」
「承知しましたぞ!」
伯爵家の面々は目をキラキラさせて頷いてくる…
「それよりリーナ嬢は放っておいていいのか?」
「あんな者は後回しでいいのですわ!」
そ、そーですか…