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クリモに着いた 一応面倒な事があったら嫌なので、手前で下りて門から入場 組合に向かう
もう夕方とあって少し混みあっている、 中を見渡したが知ってる顔はないので待機することにした。 併設されている酒場でエールを頼み、飲みながら人間観察
おっ 見覚えのある奴がやっと来たな
「おーい ガッシュ、久しぶりだな」
獣人達のリーダー格のガッシュに声をかける
「トーヤ殿!お久しぶりです! 今日は何かありましたか?」
「ああ、ちょっと話があるんだ。 買取り済ませたら時間をくれないか?」
「わかりました、少し待っててください」
「あいよー」
ガッシュ達は買取りカウンターに向かって行ったのでエールの残りを飲み干し、カップを返却する
「お待たせしました。それで…今日は?」
「この前行った店に行こう、あまり広めたくない話なんだ」
「わかりました」
以前打ち合わせをした食堂の個室へと入っていく、いつも通りに酒と料理を頼み 軽く世間話をする。 以前は8人だったグループが、今は20人に増えたらしい。 来るべき日のために毎日魔の森に入り 魔物を相手に戦闘訓練をしているらしい。
酒と料理が出揃い、入り口に付いてる簡易的な鍵をかける
「それで、今日会いに来た理由なんだが…」
獣人達が真剣な顔をしてこっちを見る
「この町に帝国の軍人が来ているのは知っているか?」
「確かにそれっぽい奴らは何人かいますね、俺達獣人を見る目がおかしいから 間違いなく帝国人だとわかります」
「そいつらはこの町で何をやっているかわかるか?」
「…すいません、 関わり合いたくなかったので近づくことすらしてませんでした」
「そっか、それじゃあしょうがないな。 それじゃあこの先もあいつらと関わらないようにしてくれ、事と次第によっちゃ俺が抑え込むから」
「何かあったんですか? 俺達も手伝いたいです」
「いや、 あいつらが王都で何か起こそうとしてるのを事前に止めたんだよ。止められた後にどういう行動を取るかで次の行動が変わるから、見極めてから動くことになるな」
「はぁ そうでしたか… 俺達に出来る事があったら何でも言ってくださいね」
「ああ、その時は頼むよ。 それじゃあ飲むか!」
「はいっ!」
翌日
荷物を積んだバートリー伯爵家の馬車 3台が開門と同時に王都を出ていった。 進路はバートリー伯爵領の領都グリモアだ。 王都から南東の方角にあり、アマンダ連合国との国境にほど近い土地で 王都から馬車で1日で着く距離だ
「さて…あの平民の小娘が帝国の手先だという事で、もう加減はいらないな?」
「お父様、まだ確定したわけではありませんわ。 まぁ帝国民だろうと王国民だろうと許しませんけど」
「うむ、拷問官と簡単に死なれないように治癒ポーションの用意もしないとな! がっはっは!」
「そうですわね、まずは知ってることを全て話してもらってから次の事を考えましょう」
「それにしても、陛下から何も通達が来ないところをみると 王家は何を考えてるのでしょうね」
父娘が悪い顔をして話し合いをしているところにセリーナが割り込む
「何を考えてるかは知らんが、婚約破棄はすでに王都中に広まっている。 今更破棄は無しと言われても受ける気は無いしな」
「では、リーナという女が我が家に着いた時点で 第二王子がリーナによって魅了されていた…と噂を流しましょう。 もちろん宰相と騎士団長の息子達も」
「そうだな、王家の者が魅了されるなどあってはならない事だ。 少しは王家にも恥をかいてもらおう」
「ふふふ トーヤ殿が連れてくるのが待ち遠しいですわ」
微笑むアリーナの目は笑っていなかった
その頃、夜間に脱走する手はずを整えたリーナは 手早く荷物をまとめていた。 第二王子シグルドに貢がせた貴金属やドレスを詰め込んで。
「どうしてこんな事になったのよ!ずっとうまくいってたのに」
警備の厳しい学園寮を見つからずに出るため、持っていく荷物はカバン1個と言われていたため 高価な物だけを厳選して詰め込んでいく
「このままうまくいっていれば もっと良い思いが出来たはずなのに…」
荷物をぎゅうぎゅうに詰め込んで、後は夜が来るのを待つばかり。 予定では警備の薄い場所の防壁から外に出て、迎えと合流し 翌日の開門と同時に王都から出てクリモの町に行くという。 クリモに行ってからの予定は決まっていない
王都を混乱させるために派兵された工作員の人数はリーナを入れて10人、その内の4人が護衛としてついてきて、残りは今後のために滞在を続けるという
王都からクリモまで馬車で約2日、クリモから帝国との国境まで馬車でおよそ13日、更に国境から帝都まで10日… 長い馬車の旅になる。 乗り心地の悪い馬車だとお尻が大変だ 今から憂鬱になる
用意が終わってベッドに座り、唇を噛む。 魅了が効かない以上学園には居られない、第二王子の後ろ盾が無くなれば、今まで取ってきた悪態の責任を取られ 下手すれば処刑まである
リーナは夕暮れが近づいて色づき始めた空を見上げる