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日が暮れて 薄暗くなったくらいで夕刻の鐘が鳴り響いた
俺は着替えを済まして隠ぺいを解き、アリーナの魔力が滞在する家に向かって歩き出す。 ダークグレイの魔虎のパジャマ… 言われなければパジャマだなんてわからないだろう!うん
歩きながら仮面を装着…これはなかなか照れるな。 門に辿り着き、門衛に招待状を見せる
「伺っております こちらへどうぞ」
ほほぅ 偏見かもしれないけど、貴族の家にしては丁寧な対応に驚く。 家の中に通され、20帖くらいありそうな応接間に案内された
「こちらで少しお待ちください」
門衛が下がり、侍女がお茶をもって入ってくる。 仮面の俺を見ても動じない辺り さすがは伯爵家の侍女って感じか
ソファーに座り出されたお茶を一口啜る…紅茶に関しては何も知識はないが、なかなか薫り高い物だけど、ちょっと渋い。亜空間倉庫から自前の砂糖を取り出し小さじ2杯入れてみた。 うん、いい感じになった 待機中の侍女の視線がすごかったけど、飲んでる間に伯爵家当主らしき人物とアリーナ、そしてアリーナにそっくりな女性
…きっと母親だな この3人が入ってきて正面のソファーに座った
「招待しておきながら待たせたようだな」
「いや そうでもないさ」
「私がバートリー伯ラジウスだ。そして我妻のセリーナ、知ってると思うが娘のアリーナだ」
「色々と思う所があって顔は隠させてもらう 俺はトーヤだ」
「まずは貴重な情報提供に感謝する。 我らもリーナという女はどうにかしてやろうと考えていたし、王家の対応にもほとほと呆れていたところだ。 其の方が今後も調査するとの事で、こちらもその情報に期待している 邪魔にならぬよう動くつもりだがある程度の行動指針を聞いておかねば不要な干渉をしてしまう恐れがあるのでな、詳しい話を聞きたいと思ってたのだ」
「言いたいことはもっともな話だ、それは理解する。 まぁリーナ嬢が魅了持ちで第二王子とその周辺が魅了されている…という事実を表に出さなければ十分だ。 それが噂になったりすると 動きが読めなくなるからそれだけは止めてくれ」
「うむ 承知した。 それで何か新しい情報はあるのか?」
「ああ、今日の午後にリーナ嬢が魅了を封じられてる事に気づいてな、なにやら怪しい連中と会っていた。その連中はクリモの町にいる准将とやらに伝令を走らせている所まで確認している」
「准将…か、アルカイト王国軍の准将はカインズ帝国との国境にあるサヴァールの砦にいるはずだから我が国の者ではない…アマンダ連合国には国軍ではなく、各領主の持つ領軍のみだったはずで 准将や少尉などの階級は使われていなかった…だとすると、帝国しかないわけだ」
「それはこれから確認するさ。今日出た伝令がクリモに着くのは早くても明日の深夜、遅ければ明後日の日中って所だ。 これから追いかけるからしばらく王都には来れないな」
「これから出て追いつくのか?」
「ああ、問題ないよ。明日の朝に出てもいいくらいだ」
「…そなたは一体何者なのだ?魅了魔法に気づくのもそうだし、それを封じるなんて宮廷魔導士でも簡単にはできないはず、まして今日の午後に出たという伝令に明日の朝に追いかけて追いつくとは…」
「ん? 知らない方がいいぞ? 世の中には知ってはいけない事もたくさんあるもんだ」
「ふふん おもしろい。 この件が片付くまでに覚悟を決めておくからその時にでも聞かせてくれ」
「後悔してもしらんぞ?」
「とりあえず良い時間だ、夕食を食べていってくれ」
「いいね、ご相伴に預かるよ」
ピリピリとした報告会を終えて、食堂に移動し 貴族の料理を楽しむ
「今更言うのもなんだが、そんなにほいほいと食べても平気なのか? 一服盛るかもしれないだろ?」
俺がもりもり食べているのを見てラジウスがそう口にする
「俺に毒は効かないからな、何を食べても平気なんだよ」
「毒が効かぬというか…本当に何者なんだ」
「この件が終わっても まだ知りたいというなら教えてやるよ。ただし、その後どれほど後悔したって知らんけどな」
「ところでトーヤ殿、その後のリーナはどうなりまして?」
今まで静かにしていたアリーナが聞いてきた
「怪しい連中と接触した後は寮に帰ったよ。何が目的なのかは知らんけど、失敗すると殺される~ってブツブツ言ってたから 今ちょっかいかけるのは良くないな、自棄になって余計なことをするかも知れない」
「そうですの…ならば背後にいる何者かの手によって殺される前に身柄を確保しなければいけませんね」
「ま、クリモに行ってみて はっきりと背後関係が割れれば好きにしていいぞ。 その辺は干渉する気はない」
「では、その辺りの情報も頂いてからこちらも動きましょう。 期待していますわ」
「ちなみに身柄を確保して、それからどうするんだ?」
「それは我が伯爵家にあれほどの恥をかかせたのです、その代償は計り知れませんわ。帝国からの間者というならば、表立って処罰すると国家間の問題になり 王家に借りを作ることになるかもしれないので、秘密裏に処罰しますわ」
「おおう なかなか攻撃的なんだな。 まぁほどほどにな?」
食事を済ませ、また来ることを約束して伯爵邸を出た。 マーカーを確認して 予定通りでいいなと判断し自宅へ戻った。 明日からは野郎のストーカーか…気分が乗らないけどしょうがないな