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クッキーを試作 なんとなく味気ない気はするけど、この世界に来て初めてのお菓子だ!
アイシスに意見を聞くか
「これはっ!」
そう言ったきり もぐもぐと咀嚼を繰り返す。飲み込むと次のクッキーを口に入れる
「どう?結構いい感じ?」
「これはおいしいですね!ほんのり甘くてサクサクで、あの もう少し分けていただいても?」
「いいよ はいこれ」
「ありがとうございます」
気に入ってもらえたようだ ゴルドアプルでジャムを作って練り込んでもおいしそうだな
とりあえずバターと砂糖は大量生産しなきゃ、いっそ小麦も育ててもいいかもな まぁ現状は買ってこないとどうしようもないけど
なんにしてもお金がいるけど、魔物素材があるので稼ぎやすいのは良い事だ。 買取ついでに小麦を仕入れてこよう
数日が経過し 順調に砂糖やバターの量産が進んでいる。干したゴルドアプルを練り込んだクッキーは…イクシードとヴァイスがお土産を求めるほど好評だった。 アイシスは俺の前に跪いて祈ってくるほどだった
やはり日本…というか地球の食糧事情は特殊なんだと実感させられた
グオオオオオオオ!
「ん? 今のは魔虎の咆哮だな、喧嘩でもしてるのか」
魔の森の中心部に生息する魔虎、さすがにこの辺を縄張りにするだけあって魔力量が多く力強い
とはいえ、遭遇しても殺さず肉体言語で躾けていたら 俺に対しては服従する態度を見せているが…
ゴオオオオオオオ!
「ぎゃああああ!」
「ん? なんか悲鳴も聞こえたぞ 誰か襲われてるのか」
今日はイクシードが来てたため、天使版の白い翼だったが、魔人版に切り替えて悲鳴の聞こえた方向へ飛び出す
現地へ着いたらひどいことになっていた。 10人ほどの人間がすでに事切れていて、獣人8人が魔虎と対峙していた
俺に気づいた魔虎は殺意を引っ込め近づいてくる 獣人も俺に気づいて口を開けている
「あの!命だけはどうか!」
獣人達が膝をついて話しかけてくる
「ん?俺は別に何もしないぞ?」
「そ、そうですか…」
「とりあえずそこの倒れてる者は仲間か?」
「仲間というか、雇い主というか」
「そうか、まぁ死体を持ち帰ることはできないだろうし 遺物だけ回収したほうがいいよ」
「は、はい!」
獣人達はすでに死んでいる冒険者たちから武器などを回収した
「残念だけど死体はこの森の魔物達に食われるだろう もう少し奥に俺の家があるんだけど、少し休んでいくか?」
「いいのでしょうか?」
そう言いつつ振り返り、仲間の獣人とアイコンタクトしている
「こんな所まで来た奴は初めてだしな 話も聞きたいし飯くらい出すけど?」
獣人達は見つめあって頷く
「それではお邪魔させてもらいます」
「わかった こっちだ」
魔虎を人間の死体の前まで押してやると 1人咥えて去っていった
「ここだ この塀の内部は魔物は入ってこないから安心して休んでくれ」
「ありがとうございます…それで あなたは一体?」
「俺かい?俺はトーヤ、見ての通り人間じゃない 魔人ってやつだ。俺に喧嘩売るっていうなら買うけど、何もしない奴には俺も何もしないよ」
「あっしらは帝国で奴隷にされ、ゴルドアプルの回収を命じられてここまで来ました」
「奴隷かい そりゃ大変だな。人間は皆死んだんだから 今なら逃げれるんじゃない?」
「ゴルドアプルを回収して戻ってくる という命令が効いてて逃げられないんですよ」
とりあえず獣人達には必殺肉野菜炒めを食わせて休ませた。なんか泣きながら食べてたけど、普段ろくな食事させてもらえなかったんだと思い、ぐいぐい食わせた
事情を聞くと、帝国の人間のやり方にイライラして止まらなくなった。
なので、獣人に手を貸してやる事にした。うちの畑からゴルドアプルを2個持たせて、森の西側の端まで送っていってやろうと思う。そして帝国貴族が約束を守り 奴隷から解放して出国させるならよし、約束を反故にするなら助けてやろう
まずは隷属の魔導具についてアイシスに聞いてみよう
「奴隷契約というのは、首輪に仕込まれた魔導具が体内に流れる魔力に干渉して操るもので 人間種ならともかくトーヤ様なら簡単に破壊可能だと思います」
「えっ?そうなの?」
「はい、首輪の限界以上に魔力を流し込めばすぐに壊れます」
「そっか ありがとね 一応帝国にもまともな奴がいるかもしれないから、そのまま帰してみて対応しようか」
後は…8人担いでいく方法だな 筏というか木製のパレットを作って釣り上げて運ぶか。よっし作ろう!
獣人達には2日ほどゆっくり休んでもらい 俺の考えを話した
「と、いうわけで手を貸してやる。帝国とやらのやり方は気に入らないからな」
「本当ですかい?ありがとうございます!」
「ほら これがゴルドアプルだ、2個持っていけ、後はこれ」
ルビーのような赤い宝石を渡す
「これに魔力を込めると起動して、俺の方から居場所がわかるようになる。もし約束を破って解放しないってなったら使え 助けに入ってやるから」
「わかりました」
「じゃあ出発は明日の夜明け前にするから、体調を整えてくれ」
そう言って獣人達を乗せるパレットの最終調整に入った。 一応空間魔法を併用して個人的には安全に運べると思うけど…乗る側は怖いだろうなこれ