1
「ふう、今日はこれでお終いにしよう」
俺はトーヤ 苗字は捨てた
ここは広大な森林地帯の中心部を開拓して防壁を作り、自宅を作り、そして広い畑がある
この森は、周辺国家からは『魔の森』として恐れられていて、開拓地の周囲には危険度B以上の魔物が跋扈している所謂危険地帯だ
なぜ俺がそんな危険地帯を開拓して畑仕事をしているかというと…
俺は人間を辞めてしまったので、人間社会で暮らすのを躊躇った為だ
『人間を辞めた』 これは決して揶揄などでなく、もう物理的に辞めてしまっているのだ
転生したわけでもなく、ごく普通に日本で生まれ育ち、結婚して2人の子を持ち、社畜とまでいかないが 家族のために働いていた。 しかし嫁の裏切りにより離婚、不貞の慰謝料と養育費は相殺ということで決着し、もう女はイラネーと心に決めバツイチ独身ライフを45歳にして始めた所だった
そんな時、魔王を名乗る黒い翼、ねじれた角を持つ少女に出会った
そう…見た目は中学生くらいだから少女だと思ったんだ 実際には年齢を忘れるくらい長く生きているらしい
そんな魔王ヴァイスが言うには
今生きてる地球を舞台にした世界、それと異なる所謂異世界というのが数多存在するらしく
そんな中で、高位と呼ばれる存在『神族』『天使族』『魔人族』『不死族』が利権争いをしていて、『神族』が開発した他種族を殲滅させる為の魔導兵器『ユグドラシル』が制御不能に陥り、世界中の命を刈り取り、吸収し 力を増大させながら無差別に侵攻しているらしい
『ユグドラシル』は二重の結界を張っていて 1枚目、外側には本体を中心に半径約20㎞にもなる生命を麻痺させる結界、これによりほぼ全ての生命体が麻痺してしまうのだ。 もちろん制作した神族も例外なく
2枚目は、本体を中心に半径約20mの、魔法や物理的な外部からの干渉を狂わせる結界、これにより麻痺結界の外側からの遠距離攻撃がほぼ無効化されてしまう。
これを止めようと神族がいろいろ試したが、結果的には1万という神族の犠牲を出してしまい 手が出せなくなり、結界の外から成り行きを見守る事しかできなく そして更なる事件が起こった。
顕現した星の全ての生命を喰いつくし、後は長い時間はかかるが、魔力が切れて弱った所を討伐…と思っていたら なんとユグドラシルは転移魔法を使い、他の世界へ転移し 同じように無差別攻撃を始めたのだった。
これにより、さすがに傍観できなくなった神族の王『神王』は、他種族といがみ合ってる場合じゃないと決断し、事情を説明してどうにか討伐できないかと相談した
これを神族の大幅な弱体化をはかれる好機と見た天使族は、2万の攻撃部隊を編成し 天界序列5位の天使セラフィーを隊長として出撃し全滅してしまった。
1万の神族と2万の天使を吸収したユグドラシルの魔力は膨大になり手が付けられなくなった
その結果、それぞれの種族を束ねる王4人が会談し対策を練っていたら新たな情報が出てきた。
ユグドラシルを制作した神族が言うには、外側に張られている最悪の麻痺結界を無効化できる体質の生命体がいて、すでに麻痺結界を潜り抜ける事には成功してたらしい。
らしいというのは、制作部隊が独断で行動して失敗し、貴重な麻痺無効体質者を死なせてしまっていたのだった。
会談の結果、それぞれの種族を先導し 無効体質の生命体を見つけ、接近戦で戦えるように強化して送り込む…という作戦で決定した
しかし無効体質者の捜索は難航し、300年が経っていた
この300年で喰い尽くされた世界は7つにも及んだ
これ以上吸収して魔力を蓄えられたら、無効体質者を見つけてどんなに強化しても討伐できなくなる…
このまま放置すれば全ての命が喰い尽くされるだろう、もう途方に暮れるしかない という所で適合者が魔人の手の者により見つかった
その報を聞いて、魔人族の王 魔王が直々に現れたのだと
「まずは話を聞いてもらえませんか?」
少女の姿の魔王ヴァイスは丁寧な口調で話しかけてきた
少女の姿、丁寧な口調…おっさんの俺には眩しい…と思ったが、翼や角があるためどう見ても悪魔です
途方に暮れている説明をされた後
「いずれはこの世界にも現れて、全てを喰い尽くす事でしょう。300年捜索して適合者は1人しか見つかってません 協力してもらえませんか?」
「いやいや、ちょっと待って」
モブだと思ってた人生が急展開しすぎて考えがまとまらない
「討伐してくれた暁には 魔王ヴァイスの名のもとにあらゆる願いを聞き届ける準備があります」
「あらゆる願いっすか…」
「もちろん出来ない事もあります 例えばユグドラシル討伐とか。その辺は交渉という事でいいですか?」
「勝てる算段はあるんですか?」
「もちろんあります、適合者ならでは…の策ですが」
「ほほぅ まぁ今は一人身だし、元嫁はどうでもいいけど、子供達の未来のために…か これはヒーローになれるな」
「もちろんです!英雄の中の英雄になりますよ!」
俺の返答にヴァイスは溢れんばかりの笑顔を見せた
…というやり取りがあって 人間の体だと弱すぎて話にならず、魔王の力を注ぎこまれ 俺は魔人へと進化したのだった。
強靭な肉体と魔王に匹敵する魔力をもって結界内に侵入し物理的にボコボコにし、逃走用の種子を撒かれる前に魔法で拘束して宇宙空間に放り出した。
そして拘束したままの状態で超高温の恒星の周回軌道に放置し、後は自然に焼かれて消滅させて今回の作戦は大成功で終了した。