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少女は卒業したい!  作者: 袖白黒雪
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 入学式とは本当に暇なものだ。ただただ話を聞くだけの時間。ボクにとってこの時間は苦手であり、非常に強い睡魔に襲われる。長い時間パイプ椅子に座っていると、腰も痛くなるし。そもそもボクにとっては2回目の入学式だし。正直、去年とほとんど変わらない内容なのもどうかと思う。立ったり座ったりを繰り返し、やっと閉会の時間となる。この後は各クラスの担任に連れられ、教室に入るだけ。これで本当に入学式が終わる。去年とは違う点を挙げるなら、同い年の同級生が居ないことだろうか。知っている人は学年が上がり、本当は心細い。まぁ、仕方無いことではあるけれど……。

 体育館から離れると、これから3年間お世話になる校舎に近付いていく。去年のボクなら今頃、不安で胸いっぱいになって、中学の同級生に笑われている時だろう。あの時の事を1人思い出す。自然と笑みが浮かんでくる。ボクにはまだ余裕があるみたいだ。なんたって他の新入生に混ざり、笑っているんだから。

「ここが皆さんの教室ですよ!机の上に皆さんの名前が書かれたプレートがありますので、その席に着くようにお願いします!」

 担任の先生らしい人が指示を出す。ゾロゾロと新入生達が入っていく。ボクは大人しくなってから入ろうと、壁側に寄っていく。小柄な体には、この状況は辛い。

 大体の新入生が、自分の席を見つけた頃にボクは動いた。名前順だとしたら、ボクは「あ行」なので探すのは簡単だと分かっている。案の定、ボクの席は教壇からみて一番左の列で一番前。なんだかんだ目立つ場所にあった。ボクは椅子を引いて静かに座った。冷たくて硬い木製の椅子。なんだか懐かしく感じてしまう。

「初めまして!私の名前は高坂美幸と言います。これから皆さんが2年生になるまでの1年間、担任として皆さんと過ごしていきますので、よろしくお願いしますね!」

 教壇に立って自己紹介をすると、勢いよくペコリと頭を下げる。優しそうな先生でほっと安心する。これからは高坂先生と呼ぶことにしよう。

 高坂先生は教室全体を見渡しながら1人頷くと、急にボクに向かって手招きをする。本当にボクなのか確認するため、ボク自身に指を指して、首を横に傾けてみせた。

「そう!貴女から自己紹介をしてもらいましょう。どうぞ、教壇へ上がってください」

「は、はい!」

 椅子から降りて教壇へ向かう。皆の視線が一気に集まるのを肌で感じ取る。小学生の時、同じ状況の中で転んだ事があるから気を付けないと……。そう思っていたのに、途中にある段差に気付かず足を引っ掛けてしまった。ボクの体は勢いよく前のめりに倒れ込む。

「キャン!」

 咄嗟に喉をついて溢れた声は、あまりにも情けない声だった。涙目になりながら立ち上がる。高坂先生は素早くボクの側に来るなり、制服やスカートに付いた埃を手で払ってくれる。

「大丈夫ですか?」

「……。はい……大丈夫れす……」

 小さな声で心配そうに高坂先生は聞いてくる。ボクも小さな声で答えるけど、舌を噛んでしまった。恥ずかしくて座り込みそうになる。ボクは必死に我慢して教壇へと辿り着く。

「えーと……初めまして。ボクの名前は秋月遥と言います。よ、宜しくお願いします」

 小さく頭を下げると、大きな拍手が起こる。所々から「よろしく!」と言う声が聞こえる。ボクはもう一度、さっきより大きくお辞儀をして、席へと戻った。恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠してしまった。

 合計40人の自己紹介も終わり、明日の日程も確認した所で今日は終わりとなった。この後は教室の外にいる光さんと一緒に帰るとこになる。配られたプリントを鞄の中に片付けて背負うと、光さんの元へと向かった。

「お疲れ様。明日から学生生活を頑張ってね!さて、帰ろうか。今日の晩御飯は外食にする?」

「ん!頑張るよ!ボクは食べれたらなんでもいいよ」

 晩御飯の事を話ながら、他の生徒や保護者に混ざって校舎を後にした。

 ボクは去年とは良くも悪くも違うことを実感した。

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