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女の子の体になってから早くも11ヶ月ほど経ったある日の朝。春も近づき、心地よい風が部屋を駆け抜ける。ウトウトと微睡む。すると、1階からボクを呼ぶ声が聞こえる。どうやらボクに渡したいものがあるらしいので、目を覚ます。正直な所、今までに色んな物を貰ってきたボクは、申し訳ない気持ちで溢れている。
やや重たい足取りで自室から出て、パタパタと階段を降りる。リビングの扉を開けて中に入ると、笑顔で手招きをする光さんが居た。
恐る恐る近付くと、テーブルの上に大きな白い紙箱を置く。しっかりとした作りのその箱は、何度か見たことのある箱だった。
「ほら、来月から高校が始まるでしょ?だから、用意してきました!」
「これって、ボクの制服?」
そうだよ!と光さんは答える。ボクはその箱をゆっくりと開けると、確かに高校の制服が綺麗に入っていた。真新しい制服の匂いにうっとりしてしまう。はっ!として光さんの顔を見ると、ニヤリといやらしくニヤけた。その顔が見たかったんだよ!と言わんばかりの表情だ。
「ありがとうお母さん!これで高校に行けるよ!」
「どういたしまして。ねえ、ここで着て見せてよ。私の可愛いお姫様」
光さんの一言で嬉しくも恥ずかしい感情が、ボクの顔を朱色に染める。
制服を箱から取り出す。当たり前の事だけど、女性用の制服だった。ボクは上着を脱いで肌着姿になる。その上からカッターシャツを着る。スカートに足を通してからズボンを脱ぐ。スカートを調整したら、最後にブレザーを羽織る。ボタンを留めて完成!
「どう……かな?似合ってる?」
「うん!すっごく似合ってる!まさJKって感じだね!」
JK……か。ボクにとっては魅惑な一言。調子に乗って両手を広げ、その場でクルリと回ってみせた。遠心力でスカートが舞い上がり、なんだか楽しくなってくる。
「良いねぇ!今度はスカートの端を少し持ち上げてみようか!」
ボクに釣られて悪ノリする光さんはボクに提案する。その言葉に答えるように、ショーツが見えないギリギリまで持ち上げて見せた。
「今のはるかちゃん、最高にエロいよ!」
「えっ、エロくないよ!お母さんのバカ!」
光さんの一言で素に戻り、顔を赤らめながらスカートを足に押さえ付けた。今のはボクが悪いのだけれど、誰かのせいにしないと気が持たなかった。光さんは大笑いしながら、謝ってくる。
「あははっ!ごめんねはるかちゃん。今までに無いほど可愛かったからついついはしゃいじゃったよ」
「ん!反省してください」
「ふふっ。でも、これで高校生活の始まりだね。一生に一度しかない青春の世界だから、悔いの無いよう勉強や恋愛を楽しんでね!」
「ん!お母さんの分も頑張りながら楽しむよ!約束する!」
こうしてボクの高校生活に向けて大きく1歩前進する。後は、来月行われる入学式を待つばかり。本当は2回目だけど気にしない!
「さて、制服はハンガーに掛けて。入学式までまだ時間があるからね。それまでのお楽しみって事で」
「はーい。戻してくるね」
脱ぎ散らかした服を抱き締めて、自分の部屋へと向かう。そこで制服を脱ぐ。ふと、部屋にある姿鏡に自分の姿を写す。そこには身長の低く、髪の長い少女がそこに写っていた。肌着を着た下着姿のボク。女の子なんだと実感する。眉毛や睫毛、目元や鼻。頬に唇を指先でなぞる。鎖骨をなぞり、下着の上から程よく膨らむ胸に触れ、鳩尾からおへそ、骨盤に触れる。さすがにそれ以上はダメだと思い、触るのを止めて、鏡に写るボクを見る。
うっすらと紅色に染まるその顔には、女性としての自我があることの現れだと感じた。
男性だった頃の自我が薄れ、今では女性としての自我が強い。オカマとかそんな感じじゃなく、元から女性として生まれてきたかのような感覚と、なんだか寂しく感じるボクがそこにいた。




