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ボクと光さんは只今、大型ショッピングセンターにある、服屋さんにいる。目的としては、光さんに贈り物を買うことと、ボクの服や下着などを改めて揃えることだ。ボクの服や下着はあるけれど、どうしてもお洒落さに欠けるらしい。まるで光さんの着せ替え人形よろしく、様々な服を渡されている状態だ。光さんから渡される服はどれも可愛らしい服ばかりで、どうにも歯痒い。
「はるかちゃん!これとかどう?似合うと思うよ」
「お母さん……恥ずかしいよ。どれもヒラヒラが付いてたりして、まるで女の子の服だよ」
次から次へと服を渡されながら、ボクはそう答える。確かに体は女の子ではあるけれど元は男。どうにも慣れない……。対して光さんは当たり前のように服を渡してくる。いや、光さんからすればボクは女の子で間違いないのだけれど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
「まあ、急に女の子になっちゃったから仕方無いよね。これからは女の子らしく生きていかなきゃいけないけど、難しいよね」
「ん。慣れるしかないけど、まだ恥ずかしいや」
服を取る手を止め、腰を落としてボクの目線に合わせる。その顔は凄く優しく、柔らかな表情でボクの頭を撫でる。
「私が先生に無理を言ったせいで、はるかちゃんは女の子になった。けれど、私は間違った選択をしたと思ってないの。お姉ちゃんが亡くなってから、はるかちゃん!貴女だけは守るって決めたの。あの時、貴女が死んでしまったら、私はお姉ちゃんに合わせる顔がなくなっちゃう。自己満足かもしれないけれど、はるかちゃんがこうして生きてくれてる。それだけで、もう充分なの」
優しく、柔らかな表情のままボクにそう話してくれる言葉には、光さんの想いが強く込められているのを感じた。ボクもそれに答えるように言葉を紡ぐ。
「お母さん。ううん、光さん。光さんが居なかったらボクは存在してない。恨んだりする事はこの先一生無いよ。それに、ボクは女の子として生きていくことを決めたんだ。今はまだまだだけど、立派な女性になるから。安心してください」
必死に紡いだ言葉は光さんに届いたようで、うん……うん……と、頷きながら聞いてくれていた。ボクは両手一杯の服を何とか動かして、光さんの手を握った。今は未完全のボクだけれど、光さんが安心できるように努力することを誓う。
「さてと、洋服選びを再開しましょうか!」
「えー……まだ選ぶの?もういいんじゃない?このままだと、ひか……っんん!お母さんに何もしてあげられないんだけど?」
「いーのいーの!今日ははるかちゃんとのデートだから。何でもしてあげる!」
結局、服屋さんではボクの服やズボン、スカートを購入した。どれも可愛らしい物ではあるけれど、嬉しく感じたの事実だった。
この後、ランジェリーショップへ向かい、ボクに合った下着をいくつか選んで買った。胸が大きくないから、選べるものは少なかったけれど、それでも気に入ったものを買うことが出来たから満足だろう。
「どれを選んでも似合っちゃうね!私もはるかちゃんみたいに可愛くなりたかったなぁ……」
「お母さんはそんなことばかり言うね。今はボクの体だけれど、この体の持ち主だった、笹倉菜月さんが可愛いだけだから。ボクはなにもしていないよ。」
「それでも、可愛いことには変わりないの。自信を持ちなさい!」
「はーい」
「よしよし!さすが私の娘、はるかちゃんだよ!」
光さんに頭をグリングリンと撫で回され、髪の毛が大変な事になってしまったけれど、ボクの心は暖かいもので溢れていた。それと同時に、この体の主だった笹倉菜月さんに心の底から感謝した。




