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時間の流れとは早いもので、春から夏へと変わり、夏から秋へと変わっていった。今では無事に退院して、光さんと暮らしている自宅へと戻ってきた。入院中、様々な初体験をしたことにより、少しずつではあるものの、心に変化が起きていた。
ボク自身、男だった時との差別化として一人称を「僕」から「ボク」へと変えた。正直全く変わっていないのだが、ボク自身が分かっていればいいや……という答えを出し、無理をして女らしい一人称を使わないようにした。
それ以外にも大きく変化したことをあげるならやはり、女性特有の体つきだろうか。身長は140㎝と少し。以前の身長が175㎝だったから、大分小さくなってしまった。今までは届いていた場所が届かなくなりやや苦戦中。後、やっぱり胸だろうか。一度下着を合わせに行った際、どうやら胸のサイズはBカップらしい。正直、女性の胸の大きさなんてわからないけれど、この体からすればやや大きい気がする。ついでに言うと体力と筋力。この体自体筋力が無い。リハビリをしながら鍛えてはきたけれど、それでも日常生活が出来る程度だ。光さんと買い物へ出掛けたときも荷物があまり持てず、体力も無いせいで光さんに迷惑をかけてしまった。
なんて考えていると、時刻は午前11時半になろうとしていた。今日は光さんの運転で市役所に行くことになっていた。手術により性別が変わってるから、戸籍等を変える必要があった。色々手順はあるらしいけれど、そのほとんどを光さんが行い、最後に書類を提出するだけとなっていた。
「はるかちゃん!市役所に行きましょうか」
「はーい。今いくよ!」
ボクは光さんが用意してくれた服に身を包む。元から長かった髪を後ろで縛る。これで完了!まだまだ女性としての自覚は薄いものの、そのうちらしくなってくるだろうと高を括る。小さな肩掛けバックにスマホと財布を入れ、パタパタと階段を駆け降りる。
「元気だね。私にもその元気分けてほしいな」
「こうでもしないと、体力付かないから」
ボクはそう答えると靴に足を入れ、真っ先に軽自動車の助手席へと乗り込む。それだけで軽く息が上がる。
「大丈夫?無理しちゃダメだよ?」
「ん。心配かけてごめんね。やっぱり体力が無いから大変だよ」
シートベルトをしながら光さんに謝る。少しずつ体力をつけるようにしよう。そうでもしないと、学校が始まると厳しい場面もあるだろう。
しばらく車を走らせ、目的の市役所へ到着する。窓口で書類を提出して、今日やることは終わってしまった。時計は午後1時を回ろうかとしている。このまま家に帰っても面白くない。そこでボクは光さんにショッピングセンターへ行くことを相談してみた。
「光さんや光さん。わたしゃショッピングセンターに行きたいんじゃが……」
ボクはふざけながら相談してみる。
「おやおや、はるかさんや。何か欲しいものでもあるのかい?」
口元を緩めながら、光さんもふざけて答えてくれる。ボクは日頃の感謝を込めて贈り物をしたいと伝えると、向日葵のような明るい笑顔を返してくれた。さすが姉妹。笑った顔も母さんにそっくりだ。
「はるかちゃんの為なら何でもしてあげる!だって、私ははるかちゃんのお母さんだからね!」
「ありがとう。本当にありがとうね!お母さん!」
出来る限りの笑顔でボクは答えると、光さんの瞳にはうっすらと涙が浮いた。この日からボクは光さんの事をお母さんと呼ぶことになった。