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少女は卒業したい!  作者: 袖白黒雪
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 入院してから早くも2ヶ月がたったある昼下がり。太陽に雲がかかりだす。雨が降りそうだなぁ……と、ズキズキくる頭痛で感じ取る。

「はぁ……退院……まだかなぁ」

 ボクは2ヶ月前、体験したことを一生忘れないだろう。

 鏡を見たあとボクは頭の中が真っ白になってしまった。だってボクの動きと全く同じように、見知らぬ少女が動いているんだから。パニックを起こしたボクは、ゆっくりと時間をかけて状況を整理、理解していくことになった。

 交通事故に遭った後、この桜乃病室に搬送された。容態はよろしくなく、生死の境をさ迷っている状態だったらしい。なにがなんでもボクに生きてほしかった光さんは、最先端医療技術を利用することを決断したらしい。内容としてはボクの脳神経等、傷付けないように全てを一度体から切り離し、他の体へと移植すると言うものらしい。詳しくはあまりわからないけれど、簡単に言うと脳の移植らしい。その為には様々な条件があり、全ての項目を通過した脳死状態の患者が必要だと米川先生は言っていた。

 なら、今のボクの体は元々誰のものだったのか。答えはすぐに教えてくれた。この体は笹倉菜月さん。ボクの1歳下の女の子で、育児放棄により施設で生活していた。しかし、脳に腫瘍が出来てしまい、脳の活動を阻害してしまった。治すことは出来たらしいけれど、最先端医療技術の為にこの体を使ってほしいという本人の意思の元、その後に脳死判定を受けたのだという。

 ボクの受けたこの医療技術は、完全な医療技術であると確立出来ていないため、ドナーとなる人が全くいない。その為、光さんが申し出たときには、笹倉菜月さんの体しか無かった……ということらしい。

 つまり、男の子としての僕は死んでしまったけれど、女の子としてのボクが新たに生まれた……ということになる。

「薬のお陰で何とか抑えているけれど、この入院中に女の子としての経験をある程度してもらうからね」

 そういうように米川先生からは言われている。体は退院出来る状態だけれど、ボク自身の精神が女性へと変われるようにサポートしてもらいつつ、日常生活に支障が起きないと判断してもらってから無事退院となる。一応その流れで進んでいる。

「ボクが女の子かぁ……信じられないけど、現実なんだよね」

 本当に信じられない。鏡に写るのは可愛らしい少女の姿。ボクの1歳下らしいから……14歳の女の子の体。そう考えると変な気分になってしまい、布団で顔を隠した。一応ボク自身、お年頃の男だった訳だし、やはり女の子の体には人並みに興味はあった。もちろん光さんの目を盗んではスマホで検索してみたり、一人で処理したりもしていたわけだし……

「な、何を考えてるんだよ!ボクのバカ!」

 ほっぺたを思い切りつねる。これをしておけばある程度の煩悩は消え去るものだとボクは考えている。もちろん効果バッチリ!煩悩なんてものはすっかりと頭から消え去っていた。

 一人芝居をしていると、扉をノックする音が聞こえる。ボクは「はーい」と返事をする。ゆっくりと開いた扉の奥には光さん一人。ビニール袋を片手に、病室に入ってくる。

「おはようはるかちゃん。体調はどう?どこか具合悪い所ない?」

 あの事故からより心配性になった光さんは、心配そうにボクに問い掛けてくる。ボクは首を横に振り、体を起こす。

「どう?体には慣れた?」

「ある程度は慣れたよ。トイレの仕方とか、体の洗い方とか。まだ生理とか体験してないから、後はそれに慣れるだけかな?あ、あと心の性別とかね」

 ボクの答えに光さんは一安心したらしく、大きな溜め息をだす。やっと安心できる。そんな風にボクは感じた。

「今まで男の子だったんだもん。なかなか難しいよね。性自認は男だけど、少しづつ女の子として変われたら一番だよね」

「うん。だから、ボクの中で男としての僕じゃなくて、女の子としてのボクになれるように努力してるよ」

 光さんは頷く。そうしてやっと椅子に座る。いつもこんな感じの会話を日々繰り返している。もはや日課のようなものだ。

 ボクは光さんの持ってきたビニール袋の中身が気になり指を差す。光さんは笑いながら中身を備え付けのテーブルに出していく。どれもボクの好きなものだ!

「あまり食べ過ぎるとご飯食べれなくなるから、一気に食べちゃだめよ?それに、食べた分はちゃんと運動しないといけないからね?」

「はーい!分かりました。というわけで……プリン頂きます!」

 聞く耳も持たずプリンを食べ始めると、優しい表情のままボクの事を見続ける。その顔は母さんにそっくりでなんだか懐かしいような悲しいような、不思議な感覚に包まれる。

「いつもありがとう光さん」

「んー?急にどうしたの?なんだか照れちゃうわ」

 ボクのために日々頑張っているのだと考えると込み上げるものがある。プリンを食べながら、自然と涙が流れた。驚きつつ、優しく涙を拭いてくれた光さんに思い切りしがみつき、声を出しながら泣いた。光さんの前で泣いたのは、母さんが亡くなって以来、初めての事だった……

 ボクはこの時から、強くなりたいと心の底から思ったんだ。

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