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眩しさを感じた僕は、ゆっくりと目を開ける。カーテンの隙間から覗く太陽の暖かな光が顔を照らす。
壁に掛かっている時計を見ると、午前9時と表示されていた。ベッドのリモコンを操作して体を起こす。今の自分がどうなっているのか見てみたかったけれど、見える範囲では自分の姿を確認できるものは無かった。
暫くして、朝の診察が始まる。看護師に優しく話しかけてもらいつつ、酸素マスクを外してもらえた。確かに普通に呼吸するより楽ではあるけれど、僕的にはあまり好きにはなれなかった。
「遥君おはようございます。体調はどうかな?」
担当医の米川先生が静かに近付きながら、僕に問い掛けてきた。僕は何も問題ないことを伝える。
「なら良かった。さてと、しばらくしたら、大切な話を君にしますから、ちゃんと聞いてくださいね?」
「はい。でも、僕自身の体には何も問題ないんですよね?大きな障害もないし、順調に回復しているのなら話すことなんて……」
そこで思いあたる事が1つ。もしかしたら、入院費の話だろうか。だとしたら真っ先に光さんに話すはずだし、正直な所は僕自信の状態には関係していない。だとしたら、やっぱり体に何かしらあったのだろう。少し不安になる。
「それでは遥君。また後で来ますからね」
来たときと同じように、静かに部屋から退出する。取り敢えず光さんが来てからの話になるだろうから、それまでの時間を病室に取り付けられてあるテレビの電源を入れる。光さんが用意してくれたテレビカードを機械に挿入する。残り時間が表示されるのを確認して、チャンネルを一つ一つ見ていった。どれもこれも似たような番組ばかりで、正直面白いとは思わなかったけれど、時間を潰すためにも僕はテレビを見続けていた。
お昼頃、光さんが米川先生と一緒に入ってきた。光さんはベッドの横にある椅子に座り、僕の手を握ってきた。その手にはやや強めに力が入っており、緊張しているように感じた。
「遥君、君にこれから話すことは嘘や冗談なんかじゃないから、良く聞いてください」
「はい」
米川先生は僕に手鏡を渡してくる。ということは、大きく顔に傷跡が出来てしまったのかと考える。僕は気になってしまい、手鏡で顔を確認しようとした。
「鏡を見る前に、質問してもいいかな?」
「質問ですか?いいですけど」
「意識が回復してから、今までとは違う違和感を感じた事はないかな?」
その質問に対して、僕にはいくつかの違和感があった。1つは、やはりこの声だろう。やけに高く、特徴のある声。アニメなんかで良く聞く女性声優のような可愛らしく感じる声。意識が戻ってからすぐだったから、喉の調子が悪いせいだと思っていたけれど、どうやらそうじゃないみたい。2つ目に、やけに体が細い。痩せてしまったとかそんな感じじゃなくて、骨格から変わってしまったみたい。そして3つ目。これが一番違和感のある部分なのだけど、男性の象徴である男性器の感覚が全くない。恥ずかしながら、やはり年頃の男の子として起こるべく自然現象が起きない。起きる気配がないのだ。やはり、そういうのも含めて、これから話すことなのだろう。その事を米川先生に伝えると、鏡を覗くように促される。
「君が今から経験していくことは全て本道の事だからね」
言われるより先に鏡を覗いた僕には、米川先生の言葉が一切聞こえなかった……なぜなら、なぜならそれは……
鏡に写っていたのは僕ではなく、全く見たことのない一人の少女だったからだ。