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気が付くと、僕は病院のベッドの上だった。体は動かないように縛られており、身動きがとれない。
酸素マスクを通して息をしている音と、心拍数等が分かる機械や、いくつもの点滴パックが吊るされていること。それ以外は知識がないからよくわからないけれど、様々な電子機器に囲まれた中で一人ベッドで寝かされていた。
頭が割れるように痛い事を除けば、それ以外にはとくに何もない。痛みのせいでまともに物事を判断できる状態ではない事だけはわかる。
意識を失うような形で眠りに落ちる。また起きたときに分かるだろうと、僕はボンヤリと考えながら……
人の話し声がする。小さい声で話しているのだろうけれど、今の僕には頭に響いて仕方無い。やや呻きながら目を覚ますと、バタバタと近付いてくる人影が2つ。その内ひとつが僕の顔に凄く近付いてきた。
「はるかちゃん!目が覚めたのね?良かったぁ……」
「ひかり……さん?」
僕に話しかけてくれたのは間違いなく光さんだとわかる。なのに、それに対して答えた声は僕自身の声では無いように感じた。もしかしたら喉が乾いているから、こんな声になっているんだろう。
「遥さん。聞こえますか?今から先生を呼びますからね?」
「あ……はい」
どうやらもうひとつの人影は看護師だったようだ。パタパタと部屋を出ていった。
「ごめんなさい……ひかりさん。僕……事故しちゃって……」
「ううん!私ははるかちゃんが生きてくれてるだけで充分よ!」
光さんの声を聞くと安心する。それと同時に、何故か涙が流れてきた。事故のときの恐怖感が今になって襲ってきたのだろう。声にならない涙が溢れる。その涙を光さんは優しく拭き取ってくれた。よく見ると、光さんの目も酷く腫れ、赤くなっていた。
「本当に……ごめんなさい……心配かけて……ごめんなさい……」
「いいのよ。私は大丈夫だから……ね?」
優しく手を握ってくれた事で、やっと安心する。そうして、落ち着いていく中、白衣を着た男性がやってくる。
「遥君、私の声が聞こえるかな?聞こえていれば、頷いたり、声を出してくれるかな?」
「あ……キコエマス」
「あぁ、緊張しなくても大丈夫だからね。意識はあるし、意思疏通も出来る……と。術後の回復も充分だね」
白衣の男性は声に出して僕の状態を確認する。多分担当医なのだろう。
「私は君を担当する米川春人。春に人と書いて、はるとって言うんだよ。よろしくね」
「はい……よろしくお願いします」
こほん……と1つ咳払いをする。真っ直ぐに僕を見つめて静かに伝える。
「意識が回復したばかりだから、今すぐには言えないけれど、落ち着いてきたら大切な話をしなくちゃいけない。その時には保護者の光さんにも聞いてもらうからね。」
「何か、体に障害が残ったとか?そんな感じですか?」
「いいや、体自体はなんの障害は無いよ。だから安心してね」
良かった。僕の体は何の障害もなく回復しているようだ。これなら直ぐ退院出来るだろうなぁ。でも、大切な話ってなんだろう……
「取り敢えず、今日はゆっくりと休んでくださいね。明日、大事は話をしますから」
「分かりました」
米川先生は笑顔で頷き、看護師に合図を送る。用意するとか何か言っているから、点滴とかだと思うけれど……
「明日になったら、その酸素マスク外しますからね。意識が回復したばかりだから、今日はつけたままでいきましょう」
僕はこくりと頷く。それを見た米川先生は踵を返し、部屋から出ていった。
「あのね……はるかちゃん。先生の話を私と一緒に聞こうね?大丈夫。私もサポートしてあげるから」
「大丈夫だよ。多分どうしても治らない所があるんだと思うから、その話じゃないかな?」
この時の僕は何も分かっていなかったのだと、実感することになる。それが分かるまでの時間はそう長くなかった……