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少女は卒業したい!  作者: 袖白黒雪
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全ての終わりと始まり

 プロローグ 

 心地よい風が、ウトウトしていたボクの頭を優しく撫でる。なんだか懐かしい気持ちになる。まるで、母さんに撫でてもらっている時みたいに穏やかな時間が流れる。

 開いた窓から見える景色は桜の花びらが風と共に舞う、綺麗な青空だった。

 ボクは電動ベッドのリモコンを操作して、体をゆっくりと起こす。眠たい目を擦りながら、ナースコールのボタンを押した……



 高校一年生になったばかりの僕は男用の制服へと身を包む。さっきまでは中学校の制服だったのに、気付けばもう高校生だ。新品のブレザーからは真新しく独特な匂いがほのかに香る。それだけで気持ちが明るくなる。学校指定の鞄を手に取り、自分の部屋から飛び出す。そのまま一階へと駆け足で降りて、ドタバタと仏間に入る。大きな仏壇には、向日葵のように明るく笑う母さんの写真が飾ってある。

「おはよう母さん。今日から高校一年生だよ!頑張って勉強して、少しでも母さんを安心できるようにするからね!」

 両手を合わせながら母さんに報告する。僕が幼い頃、父さんと離婚して以来、女手ひとつで僕を育ててくれた、ただひとりの母さん。元々体が弱かった母さんは、去年の8月20日に病気で亡くなってしまった。全ては僕がしっかりしていなかったから……そう落ち込むこともあったけれど、母さんの妹さん……つまり僕の叔母さんにあたる、光さんに助けてもらいながら、今日まで笑顔で来れたのだ。

「はるかちゃん!もう時間じゃない?」

 光さんが大きな声で僕に話しかけてくれた。入学祝いで貰った腕時計には7時30分の位置に針が指していた。

 急いでリビングに向かうと、エプロン姿の光さんがコーヒーを飲んでいた。僕も光さんからコーヒーをもらい、珍しくブラックのまま飲んでみた。けれど、苦味が強い物だったらしく、僕は砂糖とミルクを混ぜてしまった。

「大人に一歩近付いたからって、急にブラックが飲める訳じゃないのよ?」

「僕だってブラックは飲めるよ?けど、このコーヒー、いつもより苦すぎるよ……流石に僕には飲めなかった」

 光さんにはそう言いながらも、少し恥ずかしい気持ちで顔が熱くなった。当の光さんはコーヒーの味が分かるのね!と、瞳が輝いていた。コーヒー好きな光さんに捕まると学校に遅れると思った僕は、鞄を掴み玄関へと向かう。

「いってきます!」

「あら?はるかちゃん!もう行っちゃうの?あらあら!私も用意しなくちゃ!」

「光さんは後からで大丈夫だからね!」

 新しい革靴を履くと、玄関の扉を開けて飛び出していった。

 高校生活が始まると思うと、居ても立ってもいられなかった僕は、この後に起こる大きな出来事に気付きもしなかった……


 入学式も無事に終えて後は帰るだけとなった僕は、先に光さんを帰して、中学の同級生と一緒に帰ることになった。

 学校からは寄り道せず、真っ直ぐに帰るように言われたが、浮き足立った僕や同級生には伝わる訳もなく、商店街の一角にあるゲームセンターへと足を向けて歩いていた。

「なあ遥。部活とかどうするよ?」

「部活?僕は今のところ考えてないよ?勇次こそ部活どうするのさ?」

 新しい学校、新しい部活。話の種は尽きること無く、話ながら同級生と共に歩く。信号に捕まり、僕と同級生の二人は立ち止まる。目的のゲームセンターとは目と鼻の先。浮かれている僕達は信号が変わる瞬間を待っていた。

 信号が青に変わる。それと同時に僕は一足先に走り出す。周りは見ない。ただゲームセンターへと向かっていく。この時だった。同級生の大きな声が鼓膜を叩いたのは。

「遥!車!!」

 単純な言葉ではあったものの、僕にはちゃんと伝わっていた。だから、僕は引き返そうと体を捻った。その時の視界には猛スピードで突っ込んでくる一台の乗用車が見えた。

 世界が、時間が遅くなったような感覚。同級生の大声もゆっくりに聞こえる。運転手のお爺ちゃんの慌てる顔もゆっくりと見えた。

 なのに、僕の体はその場所から動けなかった。多分、感覚だけ鋭くなって、体が追い付かなかったんだと思う。逃げなきゃ……避けなきゃ……そう思いながら、瞬きをしたときにはもう遅かった。

 全身に強い衝撃と共に宙に浮く、独特な感覚。遅れてやってきた落ちる感覚の後、強く地面に叩きつけられる。アスファルトの熱と、体から漏れ出す熱が熱い……ゆっくりとやってくる痛みが怖い……薄れていく意識の中で、母さんの事を思い出していた。

「ごめん……母さん……」


 

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