某国空想昔話「専業首長」
むかしむかし。
ある所に小さな村がありました。
その村では代々引き継がれた首長が政を治めていましたが、
ある日突然、隣国の殿様がやって来て、
「これからは村民が村長を決め、政を行ないなさい」
と言ってきました。
困り果てた村民は、
選挙という新たな方法で村長を選任し、
これまでと同じ首長に政を託すことにしました。
しかし、隣国との繋がりが出来た事で世界が広がり、
これまで知らなかった首長の政に疑問を感じるようになりました。、
そんな不平不満はだんだんと大きくなり、
満を持して一人の村人が立ち上がりました。
「今の首長に任せてはいられない
村の事は村人が行なうべきだ」 と。
その声に同調した村人はとうとう半数を超え、
遂に新たな村長が誕生したのです。
村人達は、輝かしい未来に大いに期待しました。
ところが、そんな期待は夢物語だった事に気付かされます。
村人が選んだ村長が行なった政は、これまでの首長と比べて酷い物でした。
政が素人だったのは予想の範囲内だったのですが、
やる事成す事の殆どが、首長の時と同じか劣化版だったのです。
それどころか、村を蔑ろにするような言動も見受けられる始末。
村人達はこう思いました。
「村人に託して失敗した」
「餅は餅屋に任せるのが一番だ」 と。
次の選挙で村人出身の村長は惨敗し、
昔から政を担ってきた首長が村長に返り咲きました。
代々、一族で村を導いてきた首長はこう思ったでしょう。
「それ見たことか」 と。
その後の首長は、村長として村の政を無難にこなしつつ、
これまで以上に好き勝手やりました。
それらが白日の下に晒されても何のその。
何故なら、自分を脅かす存在なんて居やしないし、
村人も、村長は首長の家系に任せるのが一番だと理解しているからです。
雨降って地固まる。
試練を乗り越えた首長は、愚かな村人のお陰で磐石な体制を敷くことが出来たのでした。
めでたし、めでたし。
私はこの政治形態を、
『選挙制封建社会』と呼ぶ事にしました。