第二部
続きです。明日から連続で同じ時間に出します。
スライムは、一体で大体五百ゴールド。五百ゴールドといえば簡単な定食が食べられる。スライムの場合、ほとんど何も役に立たないので売れない。五百ゴールドはギルドの報酬だ。基本他のモンスターは需要があるのでまた別に売ることができる。捕獲系の場合はまた別だが。
サクヤから聞いたところによるとだいたいこんな感じらしい。
初めてのモンスターとの対面だったが、たしかにまんまスライムだった。普通に飼いたいなーって思う感じの可愛いスライムだった。色は個体によりけりだ。案外早く見つかってよかった。あとは殺しておしまいか。
「今回はクエストで受けているから、ちゃんとスライムの死骸を持っていかないとならん。しっかり五体分な。」
ほう。じゃあ、初モンスター殺しだ。
「じゃあ、まずは、お前からどうぞ。どんな感じでやるのか見てみたい。」
「まあ会話できるのもこのクエストくらいだし、基本は二人で協力だからな。」
「わかったからはよ。」
「ったく。見せてやろうじゃないか!」
おりゃーという掛け声とともにサクヤはスライムに向かって駆け出し、スライムを思いっきり刀で切りつける。すると刀はムニュッとスライムに食い込む。するとスライムは、目をおらつかせるとペッとサクヤの目に向かってスライムを吐き出す。吐き出されたすタイムは、サクヤの顔面にへばりつく。一進一退の攻防。って、割りと一方的にやられてねーか?
「馬鹿かおまえ。何やられてんだよ」
見てると案外笑える。
「悪い、スライムってよくよく考えてたら、打撃系の攻撃は効かないんだった。魔法のみだ。」
へばりついたスライムを必死に剥がしながら解説するサクヤ。
え、こいつスライムの価値について語ったくせに何いってんの。馬鹿なの?やっぱり馬鹿なのか。
「バカバカうるせーな。お前なんとかしろよ。」
しかしそんな声は俺に届かなかった。スライムの野郎。俺に向かって中指立ててき上がったのだ。中指ではないかもしれない。スライムはスライムを立ててきたのだ!
「スライムの分際で人間様に楯突いてんじゃねーよ。まじで張っ倒すぞゴラア。」
スライムに向かって思いっきり走っていくと思いっきり金属の棒で殴った。打撃系は効かないと聞いたものの、食い込むことなく、そのままスライムは飛んでいき、どっかに行ってしまった。
正直自分でもここまでの威力とは思わなかった。サクヤの方を見た。
スライムは溶けたのか、本体を倒した時自動的に消えたのか、彼の顔にへばりついてはいなかった。
サクヤは、最初こそ驚いていたものの、我に返ると、
「バカお前!何飛ばしてんだ!持って帰ると伝えたばっかだろ。」
「あ。悪い。」
まあ別によくねーか。他をもっと倒せばいいんだから。と思って周りを見るとスライムはほとんどいない。
「あれ、周りのスライムは?他にもいなかった?」
「お前気づかなかったのか?お前が殴ったときに一緒に回りも吹き飛んだぞ。」
「覇気?衝撃波?」
「魔法の線もあると思う。何にせよお前相当な強さあると思うぞ。」
「マジですか。」
私の強さは平均でって言ったよね!なんてことは言わないけど。
「まあ気分によりけりだけどな」
「それでこその気分屋だな。」
もうちょっと特技名は考えてほしかったんだけど。
結局この後スライムは見つからず、初クエストは失敗に終わった。倒したことには違いないが証拠がなければなんとも言えない。
異世界に来てから最初の夜。とりあえず、サクヤの家に泊めてもらった。
夜ご飯は、街にある、レストランのようなところで、奢ってもらった。
「特技って他にはどんなのがあるんだ?」
多分他も結構強力なのはあるんだろう。
「基本的に無数。人の数だけあるとも言える。」
被ることはないのか。自分だけのスキルっていいな。サクヤの話は続く。
「例を挙げるとしたら、調理のスキルもあるだろうし、散髪とか?商売に役立つもの、例えば駆け引きのスキルとかあるらしい。」
「レベルを上げると、成長するみたいなこと言ってたけど、具体的にどうなんの?」
「さあ。上がることはみんなの体験談で聞いたり、掲示板に上がってるのを見たんだ。でも、いよいよ明日から俺もレベル上げ頑張るから。」
「今まではやってなかったのか?」
「行きたかったんだけど、ソロだと危険がね。」
確かに、よくよく考えればかなりリスキーな行為だったかもしれない。
「そうなのか。明日からスライムのクエストとか受けていって頑張ろうぜ。」
こうして、俺達の異世界ライフが始まった。
次の日、スライムをまた狩りに行った。
「お前はふっ飛ばしちゃうから、黙ってみてろ。昨日俺が習得した魔法の成果を見せてやる!」
「ほう、それは頑張って。」
あいつ、そんなことしたのか。
いわれたとおり、木の近くで体育座りして見ていた。
「昨日は良くやってくれたな!喰らえ!」
「リーフストライク!」
サクヤは、掛け声とともに、手をスライムに向けてパーで突き出す。すると、手のひらから、木枯らしが吹く。リーフストライクじゃない。ただの木枯らしだ。もう一回言おう。木枯らしだ。
…こいつ馬鹿なの?馬鹿にも程が有るぞ。そうか馬鹿だったんだ。
それ、物理魔法や!
これはもう無理だ。案の定、木枯らしの葉は、スライムにめり込む。
更に案の定、スライムはスライムを吐き出し、俺に喧嘩を売ってくる。やっぱりなんど見ても腹が立つ。
「相手をしてやるか。」
前回飛ばしすぎたから、調節をして何か魔法を考える。って、俺魔法の打ち方習ってなくね?まあ考えればいいのかな?
「ファイヤーストライク!」
とともにサクヤと同じように手をかざす。
「これはヤバイ!やめっ」
その瞬間だった。火が燃えている音が聞こえてきたかと思うと、景色は、草原の緑と空の青から、炎の真っ赤な色へと姿は変わった。熱さはなかったが、これを自分がやったのかと我ながら驚いていた。
気づいたときには、目の前の草原は、きれいな扇型に地面がえぐれており、先程のスライムは転がっていた。
「殺すつもりか!」
ギリギリ範囲外に転がったのか、サクヤがこっちを見ながら服についた土を払っている。
「悪い。魔法の打ち方もわからなかったんだ。てか、俺もびびったよ。こんなになるとは。」
「まさか本当に気分次第で魔法が使えるとは。しかもこんなに強いものを。とりあえず、スライムを拾ってさっさと帰るぞ。」
地道に、スライムを拾ってギルドに帰ると、報酬がもらえた。スライムは、合計で二十四体倒したので、一万二千ゴールド。悪くない。毎日やれば、月で、三十万ゴールドは超えるだろう。財布は、基本パーティーということもあり、共同にすることとした。こうして初クエストクリアを終えた。
毎日こんな生活を繰り返していた。決まってスライムを倒しに行き、色んな魔法を試してみた。帰ると、ドストライクお姉さんに報告、報酬を受取りに行く。その後レストランに行き、夜ご飯を食べ、サクヤの家に泊まる。そんな日々だった。勿論、何があって自分がここに来たのか、何のために来たのか、についてはずっと考えていた。しかしいくら考えようと謎は深まるばかりであった。まるで当たり前のように過ぎていく毎日。一日は、朝になったかと思えばすぐに夜となり、夜になったかと思えば朝になる。何処かで感じたかもしれない。でもそれがどこかは思い出せない。基本的にどんな現象にも原因はあると考えている。原因なしの結果はありえないと考えている。一体何が起きてここに来たのだろうか。何のためになぜここに来たんだろう。しかし、この生活は久しぶりに感じた充実感のように思えた。率直に楽しかった。
そんなある日、スライムを倒したときに右上に三十と表示された事に気づいた。サクヤに聞いたところ、ギルドカードにそういうことは追加で書かれているといわれたので確認してみると、新たな文が追加されているようだった。
「気分数値表示…右上の数値のことです。気分を表しています。この数値が高ければ、ステータスが高まり、使える魔法も増えます。だと」
気づくと、サクヤが覗き込んでいる。
「すごいな、やっぱり使える魔法も増えるのか。」
確かに。これって割と最強なのかもしれない。まあ負けないのは安心だしチートに近いのかもしれない。
「それにしても本当にレベル上がると特技使いやすくなるんだな。」
「俺もそのうち何か変わるのかな。」
「読心術にそれ以上も以下もないだろ?」
「まあ相手の心に変化を与えるとか?」
「成長なんてするものか?」
スライムの回収をして帰ろうとしたときのことだった。すごい嫌な予感がする。なにか面倒なものがここに降り掛かってくる、あるいはとても強いモンスターがやってくる…とか
その時だった。そう。俺達は崖の下でスライムの回収を行っていたのだが、崖の上に不審な影が。その不審な影は何か急いでるような様子だった。
突然こちらを見つけたらしく、
「あなた達!レベルは?」と尋ねてきた。
「まあ、20くらいですけど」
馬鹿。サクヤの馬鹿。何勝手に答えてんだ。知らない人と話しちゃだめだって小学校で習わなかったのか。
「大丈夫ね。行くわよ!」
すると美少女という美少女が崖から飛び降りてくる。面倒なもの否面倒な人だったのか。というか普通に可愛い。ポニーテールでまとめられた髪。スラーっとした足。可愛い。可愛いは正義。これで一本目のフラグは回収した。まさか二本目はやめてくれよ…
と思ったときだった。ドドーンという音とともに、明らかにモンファンに出てきそうなヤバそうなモンスターが崖から飛び降りてきた。明らかなフラグ回収乙です。
「は?」
「へ?」
「やっつけて!」
は?って状況を見つめ直す時間などない。いきなりその明らかにヤバいやつは火の玉を吐く。
っつ、危ない。というところで避ける。跡地を見る限りあれはやばい。きのこをおじさんが避けたり踏んだりするゲームのラスボスの吐く火の玉にしか見えない。
「山田!俺が注意を引きつける。お前が後ろに回り込んで部位破壊しろ。」
部位破壊とかそのワード、セーフなのか?
「山田って何よその名前」
おいあの、美少女Aなんか調子乗ってるぞ。笑っていやがる。お前の代わりくらいいくらでもいるからな。もとはといえばお前のせいだろうが!
「おっけ。頼む。火の玉に気をつけろよ。」
俺はすぐに後ろに回り込むとすぐに尾を狙って、買って以来曇りの日に持ってく傘のつもりで持ってきていた金属の棒で叩く。
「おらぁ潰れろ!」
先程三十と書かれていた数値は二百前後で揺れ動いている。物理攻撃の強さは想像以上だった。想像したのとは違い、叩いたところ(尾)は破壊されることはなくそのまま地にめり込む。また効果音の登場最初のやつより明らかにやばい。加えてモンスターの鳴き声。見る限り明らかにモンスターは白目をむいて死んでいる。
「安定すぎる。山田。」
「おい、お前も何か働けや」
「後片付けしてるだろうが」
「馬鹿か。死体漁りっていうんだよ。それ拾ったら帰るぞ」
「すみません、私まだパーティーに入ってないんです。良ければ入れていただけませんか?」
いやいやあの登場でそのキャラは無理だろ。確かに可愛いけど。上目遣いいいね。でも無視だ。
「おい、あいつ心のなかで『私の可愛さで無視するとかありえないな。この低能ども。でもまあ強そうだし仕方ないから入ってやるか。』とか思ってるぞ。」
「無視だ」
「すみませんー」
声も可愛いけど、申し訳ないが予知を信じて帰ろう。
「いやー突然あんなモンスター現れるとはね」
と俺
「ねー本当ビックリした。」
とサクヤ
すると、前にすっと美少女Aが現れて
「すみません、よければ入れてほしいんですけど…」
「今日はかなり大きな報酬も手に入ったし豪華な食事ができるかもな」
と俺
「そういえばあいつの名前見たまんまファイヤードラゴンっていうんだけど、まじで肉うまいの。いつもんとこで調理してもらおうぜ」
とサクヤ
「すみません、あのー」
と美(以下略)
「そりゃあいい。何で食べるのがおいしいの?」
「火力で一気に行くのがいいんじゃない?」
とその時だった。
「ちょっとあんたたち!いい加減こんな可愛い女の子があんたらみたいな戦闘馬鹿に話しかけってやってんだから何か言ったらどうなの?!」
「いや、僕巨乳が趣味なので」
とサクヤ
「すみません、ギルドの受付のかたがタイプです。」
と俺。
そして二人で
『ということでお引き取り願いますか?』
すると美少女は一瞬へこんだように見えたが、その後すぐに復帰し、胸を張ると、
「あんたら私がどんな特技もってるか分かってるの?」と尋ねる。
「そんな特別な特技持ってるんですか?」
「そりゃそうよ。回復系の中でも最上級。それどころかもう神様レベルのものね。」
「ちょっと山田来い」
とサクヤは俺を呼び出しあいつの聞こえない位置まで移動すると
「騙されちゃだめだぞ。どうせ私の美ボディで最高の癒やしとか言い出すやつだ。」
さすがに偏見が過ぎてるだろうが。
「安心しろギルドの人一筋だ」
「了解。信じてるぞ。」
とサクヤは言うと
「で、何だったんだ?」
とb(以下略)に尋ねる。
「私の特技は蘇生よ。死んだものを生き返らせる能力。」
嘘、まじかよ。予想の斜め上行ったぞ。てか回復の意味辞書で調べてこい。
「サクヤ、来い」
「おう」
サクヤを呼び寄せると、
「どうする?」
早速本音を聞く。
「正直、本当かわからない。本当ならかなりのチート能力だ。マイカード提示でわかると思う。」
「そうか、その手があるんだな。それで行こう」
「本当ならマイカード見せてくれるか?」
「ちょ、ちょっとそれはできないわ。でも蘇生は本当よ。見せてあげるわ」
(以下略)はそう言うと、呪文を唱えだす。
おい、この場で死んだものってまさか。
おい、呪文にファイヤードラゴンって混じってなかったか。
唱え終わったと思ったその瞬間明らかにやばいあいつは確かに蘇生されていた。
「ギュェェェェェェ」
という本日二回目の鳴き声。
「馬鹿か!本当にお前は馬鹿なのか?」
とサクヤ
「だってこいつの力なら余裕でしょ?」
俺の方を指差して言ってくる
「お前サクヤに馬鹿って言われるのは相当だぞ。俺の力には条件があるんだよ。まあ条件は揃ってるけどな」
そう。正直気分は最高だった。またあいつを叩けるなんて…数値は三百。基本の十倍である。
「はぁー?じゃあやっちゃいなさいよ」
「何だその言い方?」
と言いつつもあのやばいやつに向かっていく。素早さもかなり上がってるようで普通にファイヤードラゴンの攻撃は避けられた。
思いっきり地面をけると頭を思いっきり殴る。すると頭は凹むことはなくそのまま体ごと大地にめり込む。そうか。俺はSだったのか。俺は最高の気分で着地すると、サクヤの方に向かい
「とりあえずコイツ回収して帰ろう。」
と言い、結局今日は三人で帰ることになった。
以下は酒場の出来事である。
「というかなんでお前普通に可愛いのにパーティ入ってないんだよ?特技もすごい強いじゃねえか。てかチートだぞ。」
とサクヤ
「それはまあ色々あるのよ。にしてもあんたの特技が読心術だったとは驚いたわ。そりゃああの世界一可愛いおねだりもお見通しなわけだわ。」
と以下略。ちなみに名前はエリカ。
「まあな。」
「ところで山田の特技は何なの?」
「気分屋。要は気分によってパラメーターが変わるんだ。」
正直慣れてきた。どういうときにパラが上がるかわかるのだ。
「山田の特技はかなり強い。パラの上がり具合がエグいんだ。」
とサクヤ。簡単な説明をするとエリカは少し嬉しそうに
「私にぴったりね」
と言った。
お、おう。それはいわゆる恋愛的な何かですかね?いやいや、俺はギルドの娘一筋だから。
「お前泊まるとことかないなら家泊まってく?」
おい、それは少し攻め過ぎじゃないか?
「それなら助かるわ。私最近は宿泊まりだから」
あ、了承しちゃうんだ。
「安心しろ。部屋は俺と山田が同じ部屋にベッドと布団で寝れば一つ確保できる」
「申し訳ないわね。じゃ、これからよろしくね。」
ん?これから?これは入る流れですかね?まあサクヤパーティビジュアル担当というところでしょうか?
「仮入部というところだからな。」
あら、軽く了承しちゃってるけど。
「ありがとう!ビジュアル担当として頑張るわ。」
まあ悪い人には見えなかった。嫌いじゃない。というか自分でビジュアル担当認めちゃうんですね。
でもそれにしたってなんで俺はここにいるんだろうとふと考える事がある。結果今は進むしかないとは思う。正直サクヤともかなり気が合う。人間同じタイプだとうまくいかない事が多いが俺とサクヤ正反対のタイプなのだ。趣味などはかなりあっている。サクヤも受付嬢はかなりストライクゾーンだったらしい。しかし考え方は違う。俺はどちらかというとネガティブ。サクヤは明るくポジティブ。そもそも木の近くで寝てる俺に話しかけるとか優しすぎだろ。なんだかんだ最近オレとあいつはかなりいいコンビになっていた。
「じゃあ帰るか。ファイヤードラゴンの肉うまかったな。」
「そうだな。サクヤの家がもうパーティの家になってるけども。」
「そうね。ごちそうさま。美味しかったわ。」
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