第九十七話「最終決戦」
「あれ? 何でフリーズしてるの?」
俺は困惑と驚愕と恐怖が混ざりに混ざった結果指一本動かすことすら出来なくなっている。どうやらそれはあとの二人も同じなようで小刻みに震えていた。
「な、何が目的なんだ! それと姿を現せ!」
出ない声を必死で振り絞って話しかけてみる。声帯が無くなってしまったかのようだ。
「うーん、目的……そんな大層なものは無いよ。ただ暇だったから遊んで欲しいだけ。あと姿は見せられない、声だけを飛ばしてるからね。どうしても見たかったらその道を真っ直ぐ進んで」
その言葉を言い終わると同時に今まで俺達を縛り付けていた重圧が消え去り、身体を動かせるようになった。
いつでも防御が出来るように神器を鞄から取り出すと、神様が喋りかけてきた。
『ラック、今のが本物じゃ。それでもお主はあやつに立ち向かうのか?』
当たり前だろ。俺だって出来ることならあんな化け物に関わりたくはないが、世界が崩壊するかどうかの瀬戸際にそんな我儘は言えない。
『うむ、覚悟は固いようじゃの。それならワシも安心して闘える』
神器を持った手から神様の覚悟がヒシヒシと伝わってくる。
「……じゃあ行こうかね」
半分放心状態のシルヴィさんが、それでも事件を解決しようと奥へと歩き出す。それに着いて行くと程なくして一人の少年が立っているのが見えた。
「やあ。待ってたよ」
「待ってて欲しくなかったけどな」
さっきよりも数段強い恐怖が俺達に襲いくるが、歯を食いしばって耐える。
「それで、何をするんだ?」
「簡単な事だよ。君達はこの世界を壊したくないんだよね? だったら発動者である僕を殺してみなよ。そうしたら止められるから……って事で、君がするのは僕を殺す事。さあ準備をして」
バルペウスはとんでもない提案をしてきた。俺に人殺しをしろと言うのか?
『落ち着くのじゃ。あやつは世界を破壊しようとしている。いざとなればワシがこの事件に関する記憶をこの世界から消す。だから遠慮せずに全力でやるのじゃ』
神様が興奮気味になっていた俺を諌める。言葉だけで人を操れるのは凄いな。
『あ、そういえば君がこの遊びをやらないんだったらこの二人は殺すから」
「「!?」」
いつの間にかバルペウスの両隣にはティルシアとシルヴィさんが居た。人質って訳か。
「面白え、やってやろうじゃねえか。ただし後悔するなよ」
「望むところだよ。それじゃカプセルを作ってと……」
バルペウスは透明の球を作り出すとその中にティルシアとシルヴィさんは入った。いや入れられたと言うべきだな。
そして俺は神器を一番慣れていて扱いやすい剣に変え、バルペウスに相対した。
最終決戦の始まりだ。