第九十四話「結界」
森に入ろうとしたところで昨日と同じように見えない壁に阻まれた。
「悪いね。今も全力を挙げてギルドの魔法班で結界の解析は進めてるんだけど難航しちゃってて二進も三進もいかない状況なの」
「そうなんですか。出来るかどうかは分かりませんがやるだけやってみますよ」
安請け合いしたはいいが、この結界どうやって壊すんだ? 普通にぶん殴れば良いのか?
『ここはワシに任せておけ。但し何もしてないのに結界が壊れたように見えるのはマズイから、神器を小さくして手のひらに貼り付けるのじゃ』
お、もう片付けは終わったのか。んじゃよろしく頼むぞ。
神様が言った通り鞄から神器を取り出し、極小の板に変形させてから右手に貼り付ける。この次はどうしたら良いんだ?
『そのまま貼り付けた手で結界に触れるのじゃ。その後はワシがやる。お主は何もせんで良いぞ』
それなら安心だな。何か特別な事をしろって言われても出来ないからな。
そっと右手で見えない壁に触れると一瞬ギチッという音がしたが、その次にはガラスを割ったような音と共に結界が崩れ去った。
「な、何をしたんだい? 随分と簡単に壊せたみたいだけど」
やべえ、どうやって誤魔化そう。まさか神器を持ってますとは言えないし……。
『自分でもよく分からないとでも言っておくが良い。それなら相手の追求しようもないし最善じゃ』
神様サンキュ。
「い、いや自分でもよく分かりませんね。なんか触ったら壊せちゃった、みたいな」
「へえ……ティルちゃんはどう思う?」
「怪しいですね。絶対何か隠してます」
ああ! ティルシア、お前だけは俺の仲間だと思ってたのに!
二人は完全に俺を訝しんでるし、詰みじゃないか? 神様助けてお願い!
『都合のいい時だけ神を頼るでない。自分の演技力のなさを恨むのじゃな』
そんな殺生な!
「……ま、いいや。この事件が解決した後にでもじっくりと聞かせてもらおうかね」
しかし別の神様に祈りが通じたのかそれ以上追求される事はなかった。運が良くて助かったぜ。
「ささ、早く奥へ行きましょうよシルヴィさん」
「ラックさん、話題を変えようとしてるのが見え見えですよ……?」
失礼な。俺は素早い事件解決を目指してるだけだ。決してインパクトのある事を見せて結界の事を忘れさせようだなんてほんの少しも思っちゃいない。
「まあ良いじゃないかティルちゃん。私達のどっちかが覚えておけばそれでラックの作戦は破綻するんだから」
「それもそうですね。ならラックさんの言う通り、早く奥へ進んでこの事件を終わらせましょう」