第八十六話「へそ曲がり」
「いったー! まったく、神様も作るならちゃんと作って欲しいものです」
何もないところでスカートの中が見えるくらい派手にすっ転んだティルシアはここを作った張本人である神様へプンスカと腹を立てていた。
「いや……今のはお前が悪いと思うぞ」
「あー! ラックさんまでそっちの味方をするんですか!? ふん、もういいです。こうなったら私は拗ねてやります」
その場に座り込み壁に向かって両膝を手で抱え込んだティルシアは(二重の意味で)へそを曲げた。このままでは俺が何を言っても聞かないだろう。
「はあ……俺は先に行くぞ。この迷宮で一人になってもいいならそうしてろ」
「ふーんだ!」
頬をぷくーっと膨らませながらティルシアはそっぽを向く。この野郎、マジで置いていってやろうか。
本当に置いていく気はないが、ティルシアに孤独感を味合わせるためにも駆け足で壁の角を曲がりティルシアの視界から消える。さてさて、どんな反応をするかな。
「……お、キョロキョロしだしたな」
ティルシアは俺が本当に居なくなったのを確認しようと、座ったまま首を左右に動かした。しかしその視界の中に俺はいない。
「ラックさーん! 本当に私を置いていっちゃったんですかー!? 謝りますから戻ってきてくださいよー!」
ティルシアが不安そうな顔をし、口に手を当てて叫ぶ。だが返答はなく、ただ静寂が訪れるだけだった。
このまま出て行こうとも思ったが、それではまだ反省しなさそうなので止めた。
「うう……本気で私がイヤになったんですか……? お願いですから来てくださいよぉ……!」
返事がなかった事で泣きそうな顔になりつつも俺を呼んでいたが、ついには泣き出してしまった。
そろそろ出て行かないと雰囲気的に出られなくなりそうなのでティルシアを迎えに行く。
「あ! ラックさーん!」
「よう、反省したか?」
涙でクシャクシャになりながらも無理矢理笑顔を作ったため、変な顔になってしまっているティルシアは俺に抱きついてきた。
「なんで早く来てくれなかったんですか! 危なくなったら助けてくれるって言ってたじゃないですか!」
「俺はずっと近くに居たぞ」
ティルシアは、へ? と泣き止み俺を見上げながら言った。
「あそこの壁を曲がったとこからずっと見てたんだが……」
「な! 酷いですよ!」
ポカポカと俺の腹を叩きながらティルシアは言う。可愛いなあ。
「ほら、さっさと行くぞ」
「待ってくださいよー」
俺達は再び右手を壁につけながらゴールへと歩き出した。