第八十四話「大迷宮」
姿は見えないが、確実にあの神様の声が方向感覚を惑わせるように全方位から聞こえてくる。
『その中は名前の通り迷路になっておる。どんな手を使ってでも良いからそこから出口を抜けるのじゃ』
「それだけか? 他に条件が無いならもう始めるぞ」
『そうじゃのう……特には無いの。いつ始めても構わんぞ』
よし、言質は取ったぞ。こんな所さっさと抜け出して一発ぶん殴ってやる。
「て訳だ。行こうぜティルシア」
「ええ。何の目的があるのかは知りませんが、早くクリアして神様を驚かせましょう」
何故かティルシアがやる気になっている。こいつの事だからゆっくり攻略したいとか言いそうなものなのに。
しかし折角やる気になっているのだからそれをわざわざ潰す必要もない。ここはティルシアの集中力が切れる前に出発するべきだな。
俺は神様が「どんな手を使っても構わない」と言っていたのを聞いたのでティルシアにこんな提案をしてみる。
「いちいち歩いて正解ルートを探すのは面倒くさいだろ? だからさ、この壁を壊すか上に乗れば楽に攻略出来るんじゃないか?」
「なるほど、それもそうですね。ですがどうやって登るか何か考えがあるんですか? こんな起伏一つない真っ平らな壁を登れるとは思えませんよ?」
確かにティルシアの言う通り俺達の周りを囲っている壁はティルシアの胸のようにペタンコで手足を掛けられる隙間さえない。それに縦には俺達の十倍以上も大きいからいくらジャンプしようと届きはしない。
だが俺だって何のアテもなくこんな事を言ったりはしない。ちゃんと策はあるのだ。
「まずだな、何かの魔法で俺を壁より高く打ち上げてくれ。その後は俺が何とかして壁の上に立つ。そしたらお前をロープで引き上げるからさ。大丈夫、ここでは痛みはほとんど無い。遠慮なくやってくれ」
「やり方は分かりましたが、肝心のロープはどうするんですか? 何処にも見当たりませんよ」
ああ、そういえばティルシアにはこの中で俺が神様みたいな力を使えるって事は伝えてなかったな。よし、どうせ必要になるし今作って証拠を見せとこう。
俺が手のひらを上に向けて長く丈夫なロープをイメージすると、手にロープが現れた。
「わっ、凄い! ラックさんいつの間にこんな事が出来るようになったんですか!」
「ほんの最近だよ。後で詳しく説明するから、とりあえず俺を打ち上げてくれ」
「はーい。私にお任せ……あれっ!」
ティルシアは掛け声と共に、無数の小規模爆発を俺の足の真下で起こし俺を爆風で吹き飛ばす。下を見ると壁より随分と高く飛ばされていた。上手く着地しないと落ちちまうな。
「せーの、っと」
両足に力を込めて壁の上面に着地すると、固めた砂が崩れるように壁が砕けてしまった。もしかしなくても作戦失敗?
「おわっ! すまんティルシア。壁の方が砕けちまった」
「ですね、これだったら壁を壊していった方が──」
ティルシアの言葉を遮るように大きな音を立てながら壁が元の形に戻っていく。
「こりゃ参ったな。一気に二つとも出来なくなった」
「地道に進んでいくしかありませんね……」
神様の事だから俺達のやる事を予想してなにか手を打ってくるとは思ったけど、こうしてくるのは読めなかった。一回戦は俺の負けだが次は神様の予想を上回ってやる。




