第八話「翌日」
「ふあーよく寝た。おおっ、昨日の筋肉痛が嘘のようです!」
一睡も出来ずに迎えた朝、隣のベッドでティルシアが目を覚ました。ぐっすり眠れたようで、この上なく羨ましい。
「あれ? 今日は随分と早起きですねラックさん?」
「……おう」
お前のせいで寝られなかったんだよ、と言いたいが言ったらまたニヤニヤされそうなので黙っておこう。
「あ、そういえば昨日はマッサージありがとうございました。おかげ様で筋肉痛が嘘のように取れてます」
「……おう」
「それじゃ少し早いですけど朝ご飯にしましょうか、手伝ってください」
「……おう」
俺の単調な返事に何かを感じたのか、
「……怒ってます? 正直言って昨日のアレはやりすぎました。ごめんなさい」
と、聞いてきた。アレ、というのは昨日のマッサージ中の事だろう。
別に怒ってるわけじゃなくて、起きっぱなしで体がダルいのと眠れずに朝を迎えたっていうのでテンションが下限に近いだけなんだ。ということを柔らかい表現で伝えると安心したのか笑顔を見せた。
「本当ですか! ラックさんが怒ってたらギクシャクしちゃうのでどうしようかと思ってましたよ」
「そこまで俺の器は小さくねえよ「えっ!?」」
あ、ムカついた。
「ん? 私の顔を掴んでなにをーーむにゅうっ!? いひゃい、いひゃいひぇふリャックしゃん!」
腹が立ったのでティルシアにアイアンクローをかけてみた。ほっぺがむにむにしていてとても柔らかい。
「はにゃひてくらひゃい! うみゅうー!」
ティルシアは顔面を掴まれながら叫ぶと強引に俺の手を外した。意外と力があって驚きだ。
「ハア……ハア……全く、年頃のレディに向かって何するんですか!」
何を言うか、これが男女平等だ。
そんなことをしていたら腹が減ったので朝食の準備をすることにする。後ろでティルシアが「そんなとこは平等じゃなくていいんですよーっ!」とか叫んでいたが無視しよう、アレに付き合っていたらいつまで経っても朝食が食べられないからな。
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朝食を作り木製の丸いテーブルに乗せ、席に着く。
今日の朝食は、ガラスコップに注がれた牛乳と店で買ってきたパン、それに木の器に入ったガジャ・イモのスープだ。実は昨日クエストの納品をしに行ったところ、店主が良い人でほんの少しガジャ・イモを持たせてくれたのだ。貰っておいて使わないのもアレなのでスープにしてみたが……味はどうだろう?
毒味も兼ねて少し飲んでみる。
「……ん、美味い! ほれ、ティルシアも飲んでみろよ。味が濃くて美味いぞ」
コンソメと一緒に煮込んで少し胡椒を掛けただけなんだが、意外とガジャ・イモの味がしっかりと残っていてそれがまた美味いのだ。
ティルシアが自分のスープが入った器に目を落とし、コクコクと飲み始めた。
「んっ……んっ……ぷはぁー。美味しいですよラックさん! あんまり美味しすぎて全部飲んじゃいました!」
どうやらティルシアの口にも合ったようだ。それに一気に飲むほど喜んでくれるなんて嬉しいな。
「そうかい、そりゃ良かった。また今度ガジャ・イモが手に入ったら作ってやるよ。それまで楽しみにしてな」
「ええ、約束ですからね! ずっと楽しみにしてますからね!」
俺は少々興奮気味のティルシアを宥めながら、約束を守ることを誓った。
「じゃあ朝食も食べたことですし、行きましょうか」
ああ、その言葉は聞きたくなかった。と、テンションを下げつつ採取用ナイフなどを鞄に詰める。
ちらりとティルシアの方を見ると、既に準備を終えたようで玄関の前に座っていた。
「待ってますから早くしてくださいね」
そんなことを笑顔で言うので、逆らうに逆らえず行くことになってしまった。