第七十八話「昔の話」
「なあ、それじゃあまるで──」
「そうです。神様が話した事とほとんど同じなんです」
雷が落ちたような衝撃が身体を走る。まさかあの絵本に出てきた主人公の元ネタはこの神様だったとは。
「って事は何か、神様は本当に神様だったのか?」
「初めて出会った時からそう言っておろうが。ちなみにワシも名前はあったんじゃが、永い永い間を生きてる内に消え去ってしまったのじゃ」
神様はかなり重い事実を事も無げに話した。名前なんて俺達には生まれた時からあるものだからそれが無いっていうのはなかなか想像出来ないな。
「悲しかったり寂しいと思う事はないんですか?」
「特には無いわい。何せ気付いたら忘れていたのじゃからの。忘れていた事を忘れていた事もある」
どんだけの間生きてるんだ。忘れた事さえ忘れるって色々とおかしいだろ。
「じゃあ神話の中で語られている名前を知ってもそれが本当の名前かどうかも分からないって事ですか」
「そうじゃな。ま、その話は置いといて今はその『怪物』の話をしようじゃないか」
神様は手前から横に物をずらすような動作をする。なんか話の上手いおじいちゃんみたいだ。
「嬢ちゃんよ、そいつの名前については知っているかな?」
「すみません、覚えていないです」
ほうほう、と神様は頷く。ティルシアは答えられなかった事を申し訳なさそうにしている。
「それでは教えよう。そいつの名はバルペウス、神話上では転生と破壊の神とされているようじゃ」
次に神様はそのバルペウスとやらの特徴について話した。
「そいつは死ぬと数千億年の時を経て転生し、また生まれるのじゃが不思議ことに生まれたその瞬間が一番身体が大きいのじゃ。その後は成長するにつれて少しずつ小さくなっていき、最終的にはワシ達と変わらぬ大きさになる」
それはまた不思議だ。一応神様なんだからそう言ってしまえばそれまでだけど……。
「バルペウスの目的は毎回そうなのじゃが、世界を終わらせる、つまり破壊する事なのじゃ。それで目的が達成されると自らの命を絶ち、転生の輪に自分を組み込み再び破壊に値するまで世界が発展するのを待つのじゃ」
「ちょっと待て、毎回って事はこれまでに何度もこの世界は壊されてるのか?」
俺が神様に疑問をぶつけると、神様は自分の非を認めるような声で喋った。
「そうじゃ、奴が現れる度にワシはそれを止めようとするのじゃが一度として止められた事はない。 ワシは失敗する度に世界が崩壊するのを見てきた」
神様はバルペウスへの怒りと止められなかった悔しさを露わにしている。
何度やってもダメだなんて俺だったら直ぐに心が折れてしまいそうだ。




