第七十一話「修行」
「……ん、成功したか」
「おはよう、で良いのかの?」
俺が目を開けると前と全く変わらない、寒気すら感じるような漆黒に塗り潰された空間に居た。枕元には老人姿の神様が立っている。
「おはようでもこんにちはでも何でも良いだろ。ここには時間ってものが存在しないんだし」
「それもそうじゃな。さて、何でまたここに来たのじゃ?」
「修行のためってとこかな。前一度だけ神器の形を変えた事があるんだけどさ、それが前ここに来た時にやった炎で形を作る感覚に似てたんだよ。ここなら疲れもないし時間はたっぷりあるしでいくらでも神器を扱う練習が出来ると思ったんだ」
隠してもどうせ読まれてバレるので包み隠さず全てを話す。神様もその事は分かっているようで何も言わない。
「なるほどのう。確かにそう考えてみればここは神器の修行にうってつけじゃな」
「そんな訳で早速やらせてもらうぜ」
「ああ、好きにするがよい。ここは物一つなければ怪我もしない環境なんじゃから多少危険な事をしても大丈夫じゃぞ」
神様の言うとおり、現実ではリスクが大きすぎて出来ないような事でもここではそんな心配をせず思いっきり出来る。という事でまずは今の自分が出せる火の量を限界まで出してみようと思う。
「ふぅ……おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
叫びにも似た掛け声と共に両腕に力を込める。すると一瞬の内に火の玉が炎の柱へと形を変え、辺りを揺れる赤色で染めていく。
「まだまだああああああああ!!!」
まだだ。まだ出せる。そう自分に言い聞かせながら更に大量の火を生み出していく。
疲れないとは言ってもそれは疲れた先から回復しているのであって、出力したその瞬間だけは出力した分の疲れが来る。今のような場合疲れがずっと続けて来ているので身体的には全回復しているのだが精神的にはかなり辛い。
「うぐっ! ……も、もうムリ」
精神的な限界を迎えてしまい、前のめりに倒れてしまう。身体には何も異常はないのだがつい呼吸を荒くしてしまう。
辺りを見回すと揺らめく炎は地平線の向こうまで続いていた。
「ふむふむ、ようここまで出したの。何の準備もせずここまで出せるとは君、中々精神が強いのじゃな」
「お、そうか? それは嬉しいな」
何処からか音もなく現れた神様か俺を褒める。
「これでは身体の強さより精神の強さが物を言うからの。前のワシの持ち主……プラートとか言ったか。あやつも似たような事をしておったが君よりはずっと早く諦めたぞい」
「そうだったのか。なあ神様、俺が現実で神器をこんな感じに大きくするとしたらどの位まで大きく出来るんだ?」
「そうじゃな、命と引き替えにしても構わんというならこれ位は出来るじゃろうが安定して使うとなればこれの千分の一が精々じゃ。それ以上は制御出来なくなったり身体が壊れてしまう」
という事はもっと扱う技術を高めて身体を強くしたら出来る大きさは大きくなるって事か。そう知ったらなんだかやる気が出てきたな。