第七話「平穏」
「すみませんラックさん」
ティルシアはぺたんと地面に座り込みながら俺に言う。
「ん? どうした」
「腰が抜けて立てなくなりました」
「今更怖くなったのか? ま、帰るのは休憩してからでいいさ」
いくら強がってもまだまだ子供なんだなあ、としみじみ感じる。決して大人は怖がらないかと言われればそうではないが。それにしても体育座りを崩したような姿勢の女の子って……うん。
しばらくしてそろそろ帰ろうという時間になった時、ティルシアがこんなお願いしてきた。
「あの……ラックさん、帰り道おぶってもらえませんか? ちょっと歩くのが辛くて」
俺は先程心配をかけてしまった罪悪感もあり、快く了承する。
「ああ、いいぞ。というかお前の甘える姿はなかなかレアだな」
「ひ、人が気にしてることを……! もうラックさんなんか嫌いです!」
ぐさっ! ラックの精神に一万のダメージ! ラックは落ち込んでしまった!
「えっ、ちょっ、何でそんな捨てられた子犬みたいな顔してるんですか! 冗談です、冗談!」
「良いんだよ……俺なんか……もう死んじゃおうかな」
「わーわーダメです! 死んじゃダメです!」
先程の意趣返しにすこしからかってやるとしよう。
「ティルシアが慌ててるのって可愛いなあ」
「か、可愛い!? ええとその、ありがとうございます?」
予想外の反応。俺としてはてっきり「当たり前じゃないですか、今更気が付いたんですか? だったらラックさんの目は節穴ですね」とか言われるかと思ってたんだが……熱でもあるんだろうか。
「あ、そういえば! なんであんなジェムとか魔力回復薬とかを持ってたんですか?」
「あーえっとそれはだな、昨日帰り道を楽にする方法を考えとくって言っただろ? それでお前が寝た後空間魔法のジェムを買いに行ったんだが無かったから似たような効果だと思って買っちまったんだよ。そんで魔力回復薬はまあ……秘密だ」
「えー、いいじゃないですか教えてくださいよー」
「ダメったらダメだ。つか話すほどのことじゃねえよ」
本当に話すほどのことじゃない。たまたま家にあったのを持っていただけなんだからな。
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「んっ、あっ! ちょっと痛いです!」
「……」
「そこっ、そこダメです!」
「あーもうマッサージしてるだけなのに変な声出すな!」
夜、俺はティルシアのマッサージをさせられていた。ティルシア曰く「私に心配かけさせたんですから当然ですよね?」とのこと。悪魔のような奴だ。
「変な声? 何のことですか?」
と、ティルシアはニヤニヤしながらとぼけてくる……本当に悪魔みたいな奴だ。絶対分かってて言ってるだろ!
「はあ……マッサージを続けるぞ」
その後も、太ももや足の裏を押すたびに嬌声を上げられるのだからたまらない。結局俺はその日、眠れなかった。