第六十三話「失敗」
……失敗した。今の俺にはずーんと言う効果音がピッタリ合うだろう。
「もう俺なんか死ねば良いんだ……」
「そ、そんな事無いですよ! 大丈夫ですから元気出してください!」
俺は今、会場の外でうなだれている。
名前が呼ばれた後、意気込んでステージに登場した俺は盛大にやらかした。何も無い所でつまずく、同じ方の手と足を同時に出して歩く、平静を保とうとして街長を睨みつけるなど言い出し始めたらキリが無いほどレパートリー豊富に失敗。
ああ、いっその事見てた奴らの記憶を消してついでに俺も消えたい。
「ラックさんが一生懸命やった結果なんですから誰も笑いませんよ。笑う人が居たら私がぶん殴ります!」
「嘘だ、絶対誰かが心の中で笑ってたはずだ」
ティルシアが失敗した俺を慰めてくれるが、完全に卑屈モードに入ってしまった俺には全く届かない。
その状態のままティルシアの慰めを右から左へ受け流していると脳筋ハゲのマルスがやって来た。あいつも俺を慰めに来たのだろうか。
「あーそのなんだ、あんまり気にすんなよラック……ぶふっ、ぶはははは! 悪い、笑うつもりはっ、えふっ! 無いんだが、堪えきれねえ!」
こいつは一体何をしに来たんだろう。最初は当たり障りのない普通の言葉で励ましたのかと思ったら人の顔を直視した瞬間、大笑いしやがった。
あっ、ティルシアがゴミを見るような目でマルスを見てる。俺ですらこの冷たい空気を感じ取れるというのにマルスは構わず笑い続けている。
「あのーマルスさん? ちょっと良いですか?」
「ぶふっ、嬢ちゃん。少し待ってくれへっへっ、今笑うのをやめるから」
「もう遅いです。──人の頑張りを笑うんじゃねえですよおおお!!」
「ぬほー!?」
ティルシアの渾身パンチを食らったマルスは遠い空の星となって消えた。あいつはタフだし帰ってこれると思う。
「ね、今みたいにぶっ飛ばしますから立ち直ってください」
笑みを浮かべながらティルシアが俺に手を差し伸べる。そうだよな、そろそろ元に戻った方が良いよな。
「そこまで言われちゃしょうがねえ、一丁立ち直るとしますか」
「それでこそラックさんです。さ、帰りましょう」
差し出されたティルシアの手を掴み、体育座りの状態から起き上がる。
いつもは逆の立場だからなんだか新鮮だな。
「あ、そうだ。今冷蔵庫の中に何にもありませんから途中で店に寄るので先に帰ってください」
「いや、俺も付き合うよ。大量の荷物抱えて帰るのは大変だろ」
「本当ですか? ありがとうございます」
屈託のない笑顔をティルシアが見せる。可愛いなあ。