第六十話「到着」
「──で、あそこに良いバーがあるんすよ。良かったら今度行きませんか?」
「いいね、今度予定が合ったら行こうか」
「ちょっとドギー? そこは確か裸同然の女の子達が居るバーじゃなかったかしら?」
テフロさんの冷たいツッコミに一瞬車内の空気が凍るがドギーが持ち前の明るさで持ち直す。
ドギーはテフロさんに必死で弁解をしていた。
「それはそうだけど……あ! もうそろそろ到着するから運転に集中しなきゃ!」
「上手く逃げたとか思ってないわよね? 後でたーっぷり聞かせてもらうわよ」
「わーわー何も聞こえないなー」
ああ……ドギー君、御愁傷様。もしかしたら今日が命日になるかもしれない。
そんな事を考えていると、式典会場に到着した。
「ささ、着きましたよ。只今よりちゃんと仕事用の言葉遣いに戻させてもらいます。嫌かもしれませんがご理解ください」
「うん、分かった」
車を指定の場所に停めるのと同時にドギー君の言動が相応のものになった。キッチリ分けられるあたり流石だな。
テフロさんは先に車から降り周囲の安全を確認してから、
「こちらからお降りください」
「ありがとう」
俺が車から降りると会場では大勢の人々が張り切って準備しているのが見えた。これだけの人が俺の為にやってくれてると思うとポカは出来ないな。
そのままテフロさんとドギー君に誘導され控え室に入った。
「こちらが控え室になります。中にはラック様の体型などのデータから専門家が選びましたスーツが入っていますが、もし合わないようでしたら外に居る私達にお申し付けください。至急お取替えいたします。それと──」
俺はテフロさんから諸々の控え室についての説明を受けた。一応暇潰し用の本や飲み物は持って来ているので多分呼ぶ事は無いだろう。
「説明は以上です。何か不明な点はございますか?」
「いや無いよ」
テフロさんの説明はこれでもかと言うくらい分かりやすかった。これで分からない事があったらそれは分からない奴の方に問題があると言っても過言ではないくらいだ。
「そうですか。では私達は外に待機していますので。時間になったらお呼びします」
そう言って二人が控え室から出ていったのはもう数十分前の事になる。
あの後控え室に入った俺は、最初の数分間はくつろげていた。しかし時間が経つにつれ緊張してしまい、何かに集中してないとダメな感じがして、二十分程経つ頃にはガチガチになっていた。
「……緊張するなあ……」