第五十一話「幼女」
「……ん。本当にこっちの世界に戻ってこれたな」
俺が目を覚ましたのは先程まで居た(と言っても良いのかは微妙だが)あの寒々しい黒色に塗り潰された空間ではなく、いつも通りの世界だった。これで戻れなくて一生あっちの世界の住人とかは勘弁だぜ。
「で、君は人の顔を間近で見て何がしたいのかね? ティルシア君?」
「えっ!?」
俺の言葉でゆっくりと近付いて来ていたティルシアの顔の動きがピタッと止まる。事もあろうにティルシアは、俺の寝顔の真上で目を瞑って唇を差し出す、所謂キスの姿勢で待機していたのだ。
「さ、さあ何でしょうねえ? 私はただ単に寝顔を覗き込んでたら眠くなっちゃっただけで──」
「つまりは俺と朝っぱらからキスがしたかったんだろ?」
「──」
あ、ティルシアが固まった。まあ思春期真っ盛りの子供がそういう体験をしたら歯止めが効かなくなるのも仕方ないな。ここは一つ大人の対応でもしてやるか。
「ひっ、人が折角オブラートに包んで言ってやってると言うのに……! みなまで言うんじゃねえですよおおおおおお!!!!!」
「ぬぴょっ!?」
顔を真っ赤にしながらの全力パンチbyティルシアを顔面に受け、思わず間抜けな声を上げてしまう。絶対どっか凹んでるよこれ。鏡見るの怖いなあ……。
「悪かった! からかったのは謝るから!」
「フーッ! フーッ!」
ケンカ中の猛獣かと言うようなレベルでティルシアは息を荒くしている。あんまり人はからかうもんじゃねえな。
「と、とりあえず俺は顔を洗いに行ってくるからな」
苦しい言い訳でなんとか修羅場を切り抜けた俺は、ティルシアに言った通り洗面所に向かう。
いつも通り顔を洗ってタオルで顔を拭くと、いつの間にか後ろに小さな女の子が立っていた。
「ぎにゃーっ!?」
「大声出さないで下さいよ、鬱陶しい」
なんて生意気な奴なんだ。それにしてもこの子どっかで見た事ある様な……?
「なに人の顔をジロジロ見てるんですか。通報しますよ」
絶対見た事ある! 何かこの罵倒の仕方には聞き覚えがある!
頭の中でこの子が誰に似ているかを必死に照合していると、ティルシアがコンコンと木の戸を叩きながら尋ねてきた。
「ラックさーん、大声出してましたけどどうかしましたかー?」
どうもこうもねえよ! 今戸を開けたら俺は性犯罪者の仲間入りだ。それだけは何としても避けねばならん。
という訳で今の状況を整理してみよう。そうしたら何か良い案が見えてくるはず!
・寝起きで半裸の男
・何故か服が全体的に破れていて、所々白い素肌が見えている幼女
あれ……? これは俗に言う詰みという状態なのでは……?




