第五十話「帰還」
「だーーー! 全く出来ん!」
しばらくの間、火の形を整えようと頑張ってみたが一度も出来ていない。このままじゃ一生掛かっても出来る気がしない。
「神様よーもうそろそろ教えてくれよ。さっき言ってた通り本当に詰まっちまったぜ?」
「仕方ないのう。そうじゃな、殻を壊してみたらどうじゃ? もちろんお前さんの、な」
「俺の殻を壊す……? ぜんっぜん意味が分からないんだが」
「おっと、これ以上は教えられんぞい。楽しみが無くなってしまうからの」
ケチな神様だな。別に減るもんでもねえし教えてくれたって良いだろ。
「そーかい。じゃあ俺は好きなやり方でやらせてもらうぜ」
「ホッホッホ」
神様の人を小馬鹿にするような態度 に苛立ちを覚えながらも先程の工程を繰り返す。しかし一度として成功しない。
「殻を壊すだと? なんの謎かけだよ」
そもそも何の殻だよ。と突っ込もうとしたところで俺は一つの仮説を思いついた。それは確かに俺の殻を壊すものだった。
その仮説が壊したのは、俺の考えの殻。
「そうか、俺は火を固める事に執着しすぎていたんだ。別に剣を作るだけなら火は固めなくても良い」
俺の仮説はこうだ。もともと定まった形の無いものをわざわざ定まった形にしようとしている。そりゃあ無理な話だ。そんなのは新しい概念を作り出すようなもので、今の俺が出来るレベルじゃない。
「だったらいっその事火を固めず、そのままで剣を形作れば良かったんだ。今更だがやっと気付いたぜ」
その証拠にイメージする形をカチカチの火で作られた剣から揺らめく火で出来ている剣に変えると、面白いように上手くいった。
「ホッホッホ、どうやら正解に辿り着いたようじゃの」
「よう神様。何とか出来るようになったぜ。それとさっきは悪態ついて悪かったな」
「全然気にしとらんからええよ。それともう一つ、君は確かに正解に辿り着いたが正解は一つではない。暇があったらそれを探してみるのもいいじゃろう」
「興味深い話だな。あんたの言う通り暇があったら探してみるよ」
今夜(?)は色々と勉強になる夜だったな。この神様の正体も気になるが、今の所は知れそうにない。
「おお、もうそろそろ目覚めじゃな。ほれ、お前さんの体が徐々に薄れていっとるじゃろう」
「本当だ。よし、戻るとするか。……あ、そうだ神様。俺はどうやってここに来れるんだ?」
「お前さんが望めばいつでも。今回だけは特別に儂が呼び寄せたがな」
「そうか、じゃあな神様。今度来るときも何か教えてくれよ」
「分かった。ではさよならじゃ」
神様がそう喋ったのを最後に、段々と体に力が入らなくなりまぶたが重くなっていった。意識の中で眠るってものなかなか変な感じだな。