第四十九話「擬似的」
「で、こうダラダラと話を続けるのもいいけどさ。俺はどうやってここから出るんだ?」
「もうそろそろじゃよ。現実のお前さんが起きると同時にこっちの世界も消えるからの」
そうなのか。現実とこっちのスイッチはどっちかがオンになったらもう片方はオフになるんだな。
「……なあ、さっきここは俺の意識の中だって言ったよな? てことはこの中だけなら擬似的に俺もあんたと同じようになれるんじゃないのか?」
「さあどうじゃろうな。気になるんだったら試してみればええ、時間はたっぷりあるんじゃからの」
じゃあまずは何か物を出してみよう。火でも出すか。
「うーん……」
唸り声を上げながら自分の手のひら小さな炎が出現するのをイメージしていると、ほぼイメージ通りな火の玉が現れた。
「よっしゃ出来た。でも不思議なんだが、なんで俺は火傷しないんだ?」
「フグが自分の毒にあたって死ぬか? つまりはそういう事じゃよ」
「そういうもんかね」
なんだか釈然としないが一応その理論は筋が通っているのだろう。でなけりゃ今頃俺は火ダルマだ。
「じゃあ理論に納得したところで次はそれで何か形を作ってみてはどうかね? 例えば剣とか盾とか。なんなら人でも良いぞい」
「意識の中とはいえ流石に人のレプリカを作るのは気が進まないな。てことでまずはオーソドックスな剣を作るわ」
俺のイメージする剣を作るには少し火が小さいので、まずは火を大きくしてみる。すると大きさの調整に失敗してしまい俺の背の倍以上にも火が高く上がってしまった。
「うわっ! くそっ、難しいな」
「ホッホッホ。ま、気楽にやりなされ」
再度火の大きさを調整する。……お、今度は上手く出来た。
「とりあえずこれで第一工程は完了、と。次は形だな」
まずはこの揺れ動く火を固める事が必要だ。なのでゆらゆらとしている火を握るようにして形を整える。
「ふんっ! ふんっ!」
……整えるのだがそれがえらく難しい。何度やっても手で作った輪からするりと抜け出してしまうのだ。
「なあ神様。そこで突っ立ってても暇だろ? 何かコツを教えてくんねえか?」
「いやいや、若者の奮闘する姿を見るのもまた一興じゃよ。それに教えたところでそれが出来るかどうかは別問題じゃろう。何、案ずるでない本当に詰まったらその時こそ助言をするからの」
「へえへえ、そうですかい。じゃ一人で試行錯誤しますよっと」
神様にこれ以上助言を求めても仕方ないという事が分かったので、自分で頑張るよう切り替えていく。早くしないと夜が明けちまうからな。