第四十五話「譲渡」
「どうです? ぜひ貰ってくださいよ」
「断る。第一その神器の所有権をどうやって渡すんだよ。所有権がなきゃ普通の武器としてしか使えないんだろ?」
「それは簡単ですよ。私の手に触れてみてください」
プラートの指示に従い縛られている手に触れる。特に何も起こらない。
「じゃあ行きますよ…………はい、出来ました。試しに使ってみてくださいな」
何か変化があったようには感じないが、物は試しだ。やってみる事にしよう。
落ちているハンマーを拾い上げ、ボールのような球体になるよう念じる。するとみるみるうちに神器はハンマーの形を崩し、色のない球体になった。
「おわ、マジで出来ちまった。どうやったんだ?」
「今はまだ教えられません。教えたら私に所有権を返すつもりでしょう?」
いちいち先を読みやがって……なんてイヤな野郎だ。
「そこまで分かってんならお前に返させてくれよ。これは俺が持っても正しく使えないと思うぞ」
「いえいえそんな事はないと思いますよ。根拠はありませんがなんとなくそう感じるんです」
「褒めてくれるのはありがたいが、これは元々お前の物だろ。だったらお前が持つべきだ」
「だから私は牢獄暮らしになってしまうので、宝の持ち腐れになるくらいならあなたに渡した方が良いんです」
互いの意見が真正面からぶつかりあって全く合わない。どうすりゃいいんだ。
その後も平行線の会議を続けていたが結局解決はしなかった。その時盗み聞きしていたらしいティルシアが一つの折衷案を出してきた。
「プラートさんが捕まっている間はラックさんが預かるという形で貰って、出てきたら返せば良いんじゃないですか?」
「なるほど、良い案ですね。私は賛成しますがラックさんはどうです?」
「ティルシアにしては良いのを出してくるじゃねえか。俺も賛成だ」
返す時に所有権の渡し方を教えてもらえば良いだけだし、特に問題はないだろう。
「ただしあくまでも預かってるだけだからな。ちゃんと取りに来いよ」
「ええ、もちろんです。ですがもし忘れてしまっていたらどうしましょう」
「その時はその時だ。さて二つ目の質問だが……なんで戦った時に殺さなかったんだ?」
神器の力があるなら殺すくらい簡単な事のはずなのに、わざわざ殺さなかった。その理由を知りたい。
「そうですね……特に考えてた訳ではないんですが敢えて言うならゲームだったからですかね」
「ゲームだったから、か。お前らしいな」
そう話していると遠くから重装備に身を包んだ大軍が歩いてくるのが見えた。あれはギルドの奴らだな。
「おや、お迎えが来てしまったようですね。それではラックさんさようならです。偶には差し入れにでも来てくださいね」
「気が向いたらな」
大軍は縛られているプラートを更に自家製の魔法縄で縛り上げ、本部へと連れて行った。きっと数日中には処分が下るだろう。