第三十一話「卒業」
「──はい、これで全部だ」
俺は彼女の前で、せっせと集め続けていた至高のコレクションを捨てさせられるという屈辱を味わっていた。
「ふんふん……あれ? まだ一冊足りませんよ? リビングの金庫の中にある貧乳美人系の本が」
「ぐっ……頼む! あれだけは残させてくれ! あれは大事な物なんだ!」
爽やかな春の日も暑い夏の日も紅葉が綺麗な秋の日も雪降る冬の日も共に夜を過ごしてきた、例えるなら一生の宝物は捨てたくない!
「そうですか、じゃあ私と別れましょう。私よりその本の方が良いんでしょう?」
「そうとは言わないが……」
「じゃあ捨てても構いませんよね?」
あ、ハメられた。誘導尋問とはなかなか汚い真似をするじゃないか。
「……そうだな、俺も卒業する時が来たのかもしれないな」
これも俺が成長するために課された試練なんだと自分に言い聞かせ、自らの手で袋に放り込んでいく。お前ら、今まで世話になったな。
「終わりましたね。ではその袋は私が預かっておきます」
「ああ……頼む。俺が持っていると決意が鈍るからな」
「良い心がけです」
俺のコレクションが詰まった袋をティルシアに手渡す。これで良い、これで良いんだ。
「確かに受け取りました。さ、時間も時間ですしお昼ご飯にしましょう」
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「昼飯食ったら何にもする事ねえな」
ティルシアの手料理を食べ、する事が何も無くなってしまった俺達は二人してゴロゴロしていた。
「そうですねー暇になっちゃいましたねー。何か暇を潰せるアイデア出してくださいよー」
「うーむ、抱きしめ合いながら昼寝でもするか?」
いつもだったら一蹴されて終わるだろう提案をしてみる。だが酔っ払っているような状態のティルシアだったら乗ってくるはずだ。
「きゃーラックさんのエッチー。でもやってみましょうかー」
横になっている俺にティルシアが抱き付いてくる。
側から見たらバカップルがイチャついてるようにしか見えないだろうが、そのくらい暇だ。
「あーラックさん暖かくて気持ち良いですー」
「お前も柔らかくて気持ち良いぞ」
俺の体に色々とティルシアの柔らかいところが当たっている。それと腰の辺りに腕を回しているのでさらに密着度がアップするのだ。
「それセクハラ発言ですよー。……なんだか眠くなって来ました。寝ても良いですか?」
そう言われると俺も眠たくなって来たような気がする。たまには昼寝もいいかな。
「良いぞー。おやすみ」
「おやすみなさーい」
その会話を最後に俺の意識は視界が暗くなるのと共にゆっくりと沈んで行った──。