第三十話「本」
「あ、そういえばラックさんに言っておかなきゃいけない事があるんです」
「何だ藪から棒に」
まさか昨日の今日で子供が出来たとかは無いよな。ティルシアはアレが初めてだったはずだし。
「実はですね、赤ちゃんが出来ちゃいました!」
「ブフォッ!?」
一番真っ先に除外した選択肢が来やがった。そのせいで飲んでいた茶を机に吹き出してしまう。
「わっ、汚いですね。冗談ですよーって痛い痛い! 本当に痛いですってばー!」
両手でグーを作りティルシアのこめかみに当て、力の限りグリグリしてやる。嘘をつく悪い子にはお仕置きが必要だから仕方ないよな。
「お前がしょうもない嘘をつくからだ。で、本当の言いたい事は何なんだ?」
「えっとまず、私達って付き合ってるんですよね?」
「そうだな」
「という事は、ラックさんには彼女がいる訳ですね」
「まあそうなるな」
否定しても仕方が無いので肯定する。結局こいつの言いたい事が分からないので、茶を飲みながら次の言葉を待つ。
「──じゃあ、部屋にあるエッチな本は要りませんよね?」
「ブフォッ!?」
またしても吹き出してしまった。それにしてもいきなり何を言い出すんだ。
「うわっ、本当に汚いですね。やめてくださいよ」
「お前のせいだ! つか何で本があるのを知ってんだよ!」
おかしい、ティルシアの情操教育に変な影響を与え無いように絶対にバレない所に隠しておいたはずなのに!
「私も一人で探したんですけど見つからなかったのでマルスさんに教えてもらいました」
マルスか。あの野郎絶対にぶちのめしてやる。それかいつか彼女が出来た時に同じ苦しみを味あわせてやる。
「まあ私も鬼ではないですから最後の始末くらいはあなたにやらせてあげます。なのでここに持ってきてください」
その瞬間俺は違和感を感じた。今こいつ、本の在り処を知ってるはずなのに俺に取りに行かせようとしたか? という事はだ。もしかしたらティルシアは本当は知らないんじゃないか?
自分自身でも完璧な推理だと思ったので少し強気に出てみる。
「なあティルシア。本当は本のある場所を知らないんだろ? だけど本があるのは許せないからカマをかけて俺に自白させようとした訳だ。残念だったな、お前の目論見はここで終わりだ」
俺の推理で図星を突かれたのが悔しかったのかブツブツと何かを唱えている。
「…………に……な…………の……」
「え? なんだって? よく聞こえないぞ」
勝利者宣言をするためにも少し煽るような口調で言う。
「ベットの引き出しの二重底の奥に巨乳モノの本が三冊。二つ隣の引き出しの奥にはロリータモノが五冊。玄関の魚が入っていない水槽の砂の中には防水加工を施されたDVDがパッケージに入ったままで二枚。書斎に入って左手の本棚の上から二段目にはカバーだけが取り替えられた──」
「分かった分かった! 俺が悪かった! 俺が悪かったからもうやめてくれー!」