第二十七話「理不尽」
「ラックさん、すみませんが肩を貸してください。足に力が入らなくて立てないのです」
「ん、っしょ!」
何だかいじめてやりたくなったので肩を貸すだけと見せかけ、両足も同時に持ち抱えてやった。俗に言うお姫様抱っこという奴だ。
「は、恥ずかしいですよ! 私はもう大人です!」
「良いじゃん。どうせ二人しか居ないんだし。それとも一人で歩くか?」
「むぐぅ……このままで良いですから急いでください!」
どうしようかなー、などとおどけながらティルシアを運ぶ。想像していたよりは軽くて助かった。
「じゃあ入りますから覗かないでくださいね」
「さーてそれはどうかな?」
ニヤニヤしながら言うと、「変態!」とだけ言い残して脱衣所に入っていった。
失礼な。男とは皆変態なのだ。
「あ、バスタオルはここに置いとくからなー」
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「げっ、ロクなもんがねえ。まいったな」
着なくなった服や着れなかった服が保管されているタンスの中身をひっくり返し探したのだが、どれも汚れていたりティルシアには大きかったりで良いものが見つからなかった。
「ボサボサしてっと出てきちまうし、急がねえとな」
まだ探していない棚を順番に開けていくと、最後の棚にまだティルシアが着れそうな服が残っていた。捨てなくて良かったなー。
「お、これで良いか」
それを手にして、俺は脱衣所へと駆け出した。それが悪魔の誘いとも知らずに……。
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脱衣所の扉を勢いよく開きながら浴室にいるはずのティルシアに知らせる。
「おーい服もここに置いとくぞーっ!?」
しかしあろうことかティルシアと俺の扉を開くタイミングが同時だった。つまり俺は直視してしまったのだ。何を? ティルシアのお風呂上がりたての裸を!
「よ、よう。俺はその服を置きに来ただけで覗こうと思った訳じゃないんだ! 信じてくれ!」
「へえ……不可抗力と。そう言いたいんですね」
ティルシアは拳を振り上げプルプルしているが、沈黙の中で徐々に下ろしていった。
「そうなんだ! 不可抗力だ!」
「なるほど、言い分は分かりました」
ティルシアの怒りは鎮まったようで、優しい口調だ。
「言い分は分かりましたよ……分かりましたけどその前に謝れやああああああ!」
豹変したティルシアはこちらを睨みつけ、バスタオルで身を隠している。
「ま、待て! 話せば分かる。それに怒ると熱が上がるぞ!」
「そうですね話し合いましょう。ただし制裁が終わった後でゆっくり……ね」
その後、笑顔で制裁を加えてくるティルシアを前に俺はこう思った。
「理不尽だ……」