第十九話「服選び」
俺はティルシアに着いて行き箱型昇降転移体、通称『エレベーター』に乗った。毎回乗るたびに思うんだが、転移する時の揺れはどうにかして欲しい。内臓がシェイクされて気持ち悪くなるんだよ。
そうして転移すること数十秒、『エレベーター』は、内部に設置している階数表示のランプに三階を指し示させて止まった。
俺達が『エレベーター』の外に出ると、所狭しと様々な種類の服屋が並んでいた。余談だが、二階から四階までは各階の中心が吹き抜けになっていて、どの階に居ても綺麗な空が見えるようになっている。その為、三、四階は円状に店が並んでいたりする。
「あー気持ち悪い。お前は気持ち悪く無いのか?」
「ええ、全く気持ち悪く無いですよ。むしろ、気持ち良いぐらいじゃないですか」
俺の問いにティルシアは軽く答える。つか、アレが気持ち良いだなんてどんな身体の構造してやがんだ。
「で、三階に来た訳だけどどんな服を買いに来たんだ?」
「それをラックさんに選んでもらうんですよ。だからこれから少しの間、私はラックさんだけの着せ替え人形って訳です。バンバン好みを押し付けてくださいね」
何か言い回しが妙な感じだな。そういう言い方は誤解されるからやめた方が良いと教えるべきなんだろうか?
「別に選ぶのはいいが、ハッキリ言って俺はセンス無いぞ? それでも良いなら選ぶが」
これは本当だ。数年前に自分でお洒落だと思った通りに着たら、街行く人から苦笑いされ続けた事だってある。まあ、今は少しはマシになってると思う……思いたい。
「それでも良いんです。ラックさんが選ぶ事に意味があるんですから」
と、ティルシアの真剣な返答。そこまで言われてはこっちも本気でやらねばなるまい。
「ん、分かった。じゃあ似合いそうなのを探してくるわ。お前はどうする? 着いて来るか?」
「その辺のベンチに座って待ってますよ、どんな服を持ってくるのか楽しみにしてたいですし」
その後、俺は近くの店に入りティルシアに似合いそうな服を探した。
まず、ティルシアの特徴から考える。小さめの身長、起伏の少ない身体、童顔、ショートカットと呼ぶには少し長い髪。ちなみに決してバカにしている訳ではない。これらから考えるとティルシアに一番似合うのは、やはりワンピースだろう。それもフリルの着いた長めの奴だ。
結局俺は、良いなと思ったワンピースを三着ほど選び出した。
一つ目はフリルは無く、丈長でシンプルなベージュ色のワンピース。
二つ目はさっきとはうって変わって思いっきり華やかな大人っぽい黒色のワンピース。
最後のワンピースはその二つの中間のような、派手すぎずシンプル過ぎない深い青色のワンピースだ。
早速ティルシアを呼び、店の試着室で着てもらう。着替えるのを待っている時間がやけに長く感じた。
「ど、どうですかね?」
試着室のカーテンを開けて、一つ目のワンピースを着たティルシアが出てくる。予想していたよりも可愛くて、少しの間言葉を失ってしまった。
「良いと思うぞ。お前に合ってるな」
「そうですか? じゃあ次行きますね」
そう言ってカーテンを閉め、二つ目のワンピースへと着替える。着るのに慣れたのか、先程より早く終わった。
そして出てきたティルシア。さっきはどちらかと言えば子供っぽいイメージだったが、このワンピースは露出が多く大人っぽいイメージだ。
「かなり良い……がこれは無しだな」
「え? なんでですか?」
俺の言葉に反応したティルシアが理由を聞いてくる。
「そりゃあ、お前の肌を他人に見せたく無いからだ」
ちょっとキザに言ってみると、ティルシアは俯いてすぐにカーテンを閉めてしまった。怒っちゃったか?
三回目ともなると完全に着方を覚えたようですぐに着替え終わった。
カーテンを開いて出てきたティルシアは、俺の中で思い描いていた理想の女性像と一致していた。
「ど、どうですか?」
ティルシアが少し照れながら意見を求めてくるが、今の俺にはそれを形容する言葉が見つからない。それ位完璧なのだ。
「ああ、似合ってるよ。少なくとも俺が何も言えなくなる位にはな。それでティルシア、その三着の中で一番気に入った物はどれだ? もし無かったら選び直すから正直に言ってくれ」
ティルシアは少し考えてからこう言った。
「そうですね……どれも捨て難いんですけど、やっぱり今着ているコレですかね」
ティルシアの意見に、俺は内心ホッとする。ティルシアが気に入ったという事は、これからもこの姿が見られるという事だからだ。
「よし、じゃあ買おう。どうする、そのまま着てくか?」
「はい」
ティルシアは試着室内の服を持ち、レジに歩き出す。買わない服は俺が戻しておいた。
レジで会計を済ませ、再び『エレベーター』に乗る。その後一階で降りた俺達は夕飯の食材を買い、百貨店を後にした。ふと時間を見るともうすぐ夜になるところだったので、ティルシアに夕飯はどうするのかを聞いてみたところ家で食べると言う。それが今日のデートの終わりだそうだ。
俺達は荷物を持ちながら帰路についた。