第十二話「浮いた話」
ベリーボアの討伐を確認した俺達は、討伐したという事を証明するためその死体を引きずりながらノスタさんの家まで戻った。今日と明日、俺を自由に出来るティルシア様の熱いご指名により俺がベリーボアの死体を運ばされたのは言うまでも無いことだな。
一つだけ言いたい。生身の人間がコイツを運ぶのは無理だ、と。今回はティルシアに肉体強化魔法を使って貰えたので何とか運べたが、一人で来ていたら正直無理だっただろう。そりゃみんな高い金払ってでもギルドの事後処理制度使うわ。
ちなみに大抵のギルドには事後処理制度というものがあり、有料だ。その制度はどんな制度かと言うと、高い料金を支払う代わりに大型モンスターの死体の運搬やらなんやらを全てギルド側がやってくれるのだ。俺は一度も使ったこと無いけどね! 金が無いから!
もうすっかり夕方になってしまった頃、俺が苦しみながらベリーボアを引きずっていると、ノスタさんの家が見えた。
「ああ、やっとこの苦しみから解放される……」
「え? 何言ってるんですか? ノスタさんに報告したらギルドまでその死体をラックさんが持って行くんですよ?」
お前は鬼か。そんな恨みを込めた視線をティルシアにぶつけていると俺を励ますような感じで肩に手を置いてきた。その優しさが心に染みるね。
「ほい、じゃあノスタさんに報告して来ますのでその辺で待っててください」
「おう、よろしく」
マルスはティルシアに返事をしていたが、俺は言葉を発することすら怠かったので首を縦に振るだけの動作をする。ティルシアがノスタさんと談笑している間、暇だったのかマルスが話し掛けてきた。
「なあラック、お前はあの嬢ちゃんのことをどう思ってるんだ?」
「何だよ藪から棒に、んで嬢ちゃんってティルシアのことか?」
「もちろんだろ。それ以外に誰がいるってんだ」
ティルシアをどう思っているか、か。今まであんまり深く考えたことが無かったな。良い機会だし、考えてみるか。
「そうだな、うーん……あいつは可愛い義理の妹って感じだな。なんつーか、家族愛?」
「ほほう、そうかそうか。こりゃ嬢ちゃんも苦労するな……」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、別に」
なんだか最近ティルシアと言いマルスと言い俺に秘密を持ってる気がする。何がなんでも知りたいって訳じゃないけど隠されると気になるのが人情だよな。
「ところで、お前の方はどうなんだよ。なんかそういう浮いた話とかは無いのか?」
「ああ、街の商店街にパン屋があるだろ? 実はあそこの美人な店員さんをデートに誘ったんだよ。で、先週のデートの帰りにフラれちまった。彼氏が居るんだとよ」
「おお……なんか塞がりかけの傷口を開いて塩を塗りこんだみたいになっちゃったな」
悪気は無かったんだすまん、と付け足すとマルスは「もう終わったことだしな」と許してくれた。
そんなことを話していると、ティルシアか笑顔で戻ってきた。
「お待たせしましたー! さっ、帰りましょう」
「あいよーおぉぅ……」
気の抜けた返事をしたところで俺は現実に引き戻された。何故かって? とっても大きな猪さんを見ちまったからさ。
帰っている途中、マルスとの話のせいかティルシアが可愛く見えたのは内緒だ。




