第九十九話「召喚」
バルペウスの持っていた杖を破壊したが魔法はまだ止められない。どうやらあいつは杖を介さずに直接魔法を撃っているようだ。
「神様! 魔法を止めさせるにはどうやるんだ!?」
「あのやり方で撃っている以上止めさせる方法は無い。ワシらに出来るのはこっちに飛んできたのを真上に弾くだけじゃ」
「けどそれじゃ森が!」
その方法では森に飛び火してしまう事を心配すると、神様はそれを制するように言った。
「案ずるでない、終わったあとにワシの力でどうにでもなる。じゃが世界が崩壊しては何も出来ん。今は生き残る事だけを考えるのじゃ! そら来たぞっ!」
「分かった! じゃあ遠慮なくやらせてもらう!」
神器の力で人間の限界を超えて底上げされた身体能力を生かし、飛んでくる魔法を残らず弾き飛ばして突き進む。そしてバルペウスに肉薄する!
「おおおおおお!」
「あらら、これでもダメか。じゃあこうしよう」
俺が神器で横一閃に薙ぐとバルペウスは躱して大きく距離を取り、何かを詠唱した。
詠唱したのは召喚魔法。バルペウスの目の前に次元を引き裂く穴が開き、中からは深紅で全長二〇メートルほどもある人型の化け物が這い出してきた。
そいつは俺の姿を見つけると、エアスの街まで響くような咆哮を繰り出した。
「こいつは!?」
「あれ? 君達知り合い?」
「知り合いも何も殺されかけただけだ。まさかまた出会うとは思ってもみなかったぜ」
さて、前は超転移のマジックジェムで無理やり撃退したんだったな。今回はそれは出来ないが……どうする?
『神器を巨大な鎚に変えて頭部を一撃で消し飛ばすのじゃ。今のお主ならジャンプであそこまで飛べるじゃろう』
「おーけー。せーの、よっ!」
両脚に力を込め大きく沈み込む。次にその力を解放し、思いっきり跳躍する。もちろん神器の形を変える事も忘れずに。
「でりゃああああああ!」
攻撃が頭部に当たる範囲に入ったところで神器を全力で縦に振り下ろす。当たった部位に白い煙が上がっている。
「どうだ!」
姿勢を崩さぬよう注意しながら着地し、化け物を見据えた。煙が晴れた先には……首から上が消し飛び、背後の空が見えている。運良く一発で当たったようだ。
「おお、これも倒しちゃうのか。なら次だね」
そう言うとバルペウスは空中に浮遊し、その場で停止した。そこから魔法で精製した槍をくまなく俺の周囲に落としてくる。
「ラック、撃ち落すのじゃ!」
「もうやってる!」
神様に言われるまでもなく、神器を大剣の形状に変え、振り回す。風圧で槍は勢いを失い、回りの槍とぶつかりつつ落ちてきた。当然隙間が出来るのでそこに移動し、それでもそこに落ちてくる槍は大剣で叩き折る。
「避けられないほどの物量攻撃の盲点だな。次はどんな手で来るんだ?」
堂々と胸を張ってバルペウスを睨みつける。