表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

3話 デバッグの力

 目が覚めると木々が立ち並ぶ場所に立っていた。地面には誰にも手入れされていない雑草が俺の腰ほどの高さほど伸び、生い茂っている。その地面に目をやった時に自分の両足が見え、今まで履いていたリクルートスーツのズボンと革靴ではなく、茶色のズボンとブーツになっていることに気がついた。


 このズボンと靴は見たことがある。キャラメイクの時にマネキンに着せた服の下半身部分であり、その服を初期装備に選んだ。そして俺がそれを履いている。ここから考えられることは一つ、俺はキャラメイクの時に選んだ初期装備を身に着けているということ。


 と言うことは、ここは仮想現実。俺は仮想ではあるが、ファンタジーの世界へとやって来たんだ。


 それはそうと、仮想現実の世界に来れたはいいが、説明とかを聞いていない。この世界ですべきことは聞いたが、それだけ。この世界でのルール、魔法の使い方などを聞いていないのだ。


 ――ピリリリリッ!


 突然電子音が聞こえてきた。携帯の着信音と同じ音。それは俺の左側の腰から聞こえている。


 左側の腰に目をやると、ファンタジーの世界に似つかわしくない、ファスナーが付いたプラスッチック製の四角い、手の平ほどの大きさの容器がベルトに通されてぶら下がっていた。この中に音の元凶が入っているのだろう。


 俺はファスナーを開いてそれを取り出した。スマートフォンだった。画面には中央に「着信」と表示され、その下に赤く塗られた枠の中に「通話」と表示されている。俺は「通話」にタップしてスマートフォンを右耳に当てた。


「もしもし?」

「あっ、無事に仮想現実の世界にアクセスできたようですね。貴方を案内した者です」


 声の主は俺をこの世界に立つまでに手引をしてくれた女性のものだった。


「この世界での魔法、道具の使い方などを案内するために連絡させていただきました。それで使い方なのですが、その前に今手にされているスマートフォンの使い方はわかりますか? 現世と同じ操作方法なのですが」


 わかる。俺が生きていた頃、スマホを使っていたからな。女性の質問に俺は「わかります」と答えた。


「そうですか。それでは、道具などの使い方なのですが……スマートフォンの待ち受け画面に「説明書」と書かれたアイコンがあるのでそれを御覧ください」


 説明しねぇのかよ! てっきりチュートリアルでも始まるのかと思ったが、自分で確認しろってか。


「私どもがその世界で貴方に関わるのは、トラブルが発生した時などを除き、今回限りとなります。後はその世界でどのような振る舞いをしてくださっても結構です。それでは最後となりましたが、ご健闘をお祈りしております」


 その言葉を最後に通話は途切れた。右の耳からスマホを離して画面を見る。


 画面は白色の背景に何だかよくわからないロゴが壁紙の待受になっており、左上に四つのアイコンが存在している。左から順番に「説明書」、「装備変更」、「道具」、そして「D」とアルファベットが書かれただけのアイコンだ。


 そしてその下、上から順番に「体力」、「魔力」、「攻撃」、「防御」という言葉が並んでいて、それぞれの言葉の隣に一文字開けて数字が表示されている。体力と魔力は三桁、攻撃と防御は二桁だ。


 これは説明を読まなくてもわかる。現在の俺のステータスだ。


 そして、そのステータスの隣に枠が設けられている。枠の上部に「装備による発動中のスキル」と書かれ、枠の中には「勇者駆け出し」と書かれていた。これも説明書を読むまでもなく、俺に発動しているスキルだということがわかる。


 勇者駆け出し。それが今俺に発動しているスキルか。枠の中をタップする。


 すると、画面が切り替わり、画面の上部中央に「スキルの詳細」という言葉が表示され、その下に一行開けて色々と言葉が書かれている。発動中のスキルがどんな効果を発揮しているのか書かれているらしい。


 どれどれ、「体力+10」、「魔力+10」、「攻撃+5」、「防御+5」か……まあ初期装備だしこんなもんだろう。左下に表示されたバックボタンをタップし、待ち受け画面に戻った。


 さて、次は説明書だ。俺は説明書をタップした。



 ――――



 バックボタンをタップし、待ち受け画面に戻ってくる。説明書はイラストがふんだんに使用されていてわかりやすかった。そして、装備の変更の仕方、道具の使い方、道具とお金の収納の仕方がわかった。


 後、この世界でのルールもわかった。以下の通りだ。


 ****


・体力が尽きればそれまで。即、この世界から退場させられる。


・復活の魔法、アイテムは存在しない。


・スマートフォンの右上にはスマートフォンの電池の残りがゲージで表示されており、そのゲージは時間経過やスマートフォンを操作すると減って行き、無くなるとスマートフォンは強制的にシャットダウンされる。また、手に入れたアイテムや装備は全て失われる。電池は街やアイテムで充電できる。


・スマートフォンの電源が切れている間はアイテムを使用、取得ができなくなる。


・所持できる体力を回復させるアイテムは六個まで。そのアイテムは他プレイヤーからの譲渡以外では入手できない。


・体力回復の魔法『ケア』は他の魔法と違って魔力を消費せず、六回までしか使えない。使う回数をアイテムなどで増やすことはできない。


・この世界でどのように過ごそうが自由である。


 ****


 以上がルールである。体力回復の魔法、アイテムの使用回数が制限されているのはきついな。ただ、体力回復用のアイテムに限っては他人からの譲渡によって入手できるのは救いか。


 それと、スマホの電池だ。デバッグモードはスマホをシャットダウンするか再起動すると解除される。気をつけないといけない。


 さて、待ち受け画面を見てだが、説明書には「D」と表示されたアイコンの説明は載っていなかった。これはひょっとすると。「D」のアイコンをタップする。


 すると、画面は真っ黒な背景に白い文字で短い言葉が一行ごとに改行されて書かれ、そのとなりにそれぞれチェックが付いていないチェックボックスが表示されている。何と書いてあるかというと、「体力減らない」、「魔力減らない」など様々だ。


 確信した。これはデバッグモード専用のアイコン。チェックボックスをタップするとチェックが入り、その隣に書いてあることが適用されるわけだ。


 俺は必要そうなものを選んでチェックボックスをタップし、チェックを入れていった。



 ――――



 作業を終え、画面を注視する。


 (まあ、こんなもんだろ)


 チェックボックスにはほぼ全てにチェックが入っている。結局、ほとんど必要だったな。バックボタンを押して待ち受け画面に戻り、「装備変更」のアイコンをタップする。


 チェックを入れている間に興味深いものを目にした。「デバッグ武器」と「デバッグ防具」だ。それがどのような見た目なのか興味が湧き、それに変更してみようと思った。


 防具一覧を参照する。ちなみに防具は先程「防具全入手」のところにチェックを入れたので、初期の防具から最強の防具まで全て入手済みだ。武器も同様。


 フリックしてページを送り、そして一番最後にそれは存在した。「デバッグ防具」と表示されている所をタップする。


 すると、今まで感じていた体への重みが変わった。先程に比べて随分と軽い。何も着ていないようなそんな感じだ。


(まさか、デバッグ装備って裸なんじゃ……)


 あり得ないことではない。デバッグ装備というのは通常の装備と区別するために特別なデザインをしているものだ。デバッガーしか使わないからデザインなんて必要ないと裸にしている場合もある。


 足元を見る。するとブーツから草履に変わっていた。ズボンは黒の見覚えがある物に変わっていた。


 少し前までテレビで見たことがあった。確か、戦国時代を背景にしたドラマ。そうだ、登場していた武将が着ていた物だ。両腕を見渡すと、それも武将が着ていたものになっている。


 現在装着している防具は、日本の戦国武将が着ている甲冑のようだ。とりあえず満足、次に武器を変更する。


「デバッグ武器」をタップすると右の腰にあった剣は消え、代わりに目の前に槍が置かれた。刃の部分が十字になっているのが特徴の槍。


 これもドラマで見たことがある、武将が使っていた槍だ。どうやらデバッグ装備は日本の戦国武将装備一式のようだ。


 槍を右手に取る。とても軽かった。と言うより、重みを全く感じなかった。棒を握っている感触はあるが。


 スマートフォンに目をやり、槍を持ちながら右手の人差し指で器用にバックボタンを押し待ち受け画面に戻る。ステータスを見て驚いた。


 なんと全てカンストしているのだ。体力と魔力が四桁、攻撃と防御が三桁に変更され、すべての桁が「9」を表示している。そしてスキル欄、そこには「デバッグ」と表示されている。


 スキル欄をタップし、スキルを確認する。「全攻撃に全属性付加」と「全属性無効」と書かれていた。すげぇ、これなら何が来ても負ける気がしねぇぜ! 宝玉もさくっといただきだな!


(いや、待てよ?)


 効果を適用するためチェックボックスにチェックを入れている時、「全アイテム入手」と言う項目があった。つまりだ、既に宝玉も手に入っているんじゃ? 


「道具」のアイコンをタップしてフリックしてページを送り確認する。しかし、『宝玉』と言うアイテムは何処にもなかった。どうやら、宝玉だけは自力で手に入れなくてはならないらしい。


 待ち受け画面に戻し、腰にぶら下げているケースにスマートフォンを仕舞う。とにかくだ、俺は最強! 誰も俺に敵わない!


 力を手に入れると試してみたいのが人の性ってものだ。早速この力を使ってみたい。


 近くの草むらでガサゴソと音がして揺れた。


(モンスターのお出ましか?)


 俺を槍を構えた。いつでも来るといい、戦闘の準備は万端だ。草むらから何かが飛び出してきた。


 それはモンスターではなく、女性だった。茶色の長髪で整った顔立ちの美女が、四つん這いになって目に涙を浮かべている。あれ? この人って確か、隣の容器で寝ていた――。


「助けてくださいっ!」


 女性は泣きながら俺の両足にしがみついてきた。女性に、こんな美しい人に抱きつかれるなんてもういつ死んでも悔いはない。あ、もう死んでるか。


 再び草むらが揺れ、何かが飛び出してきた。大福の形をした、青色のゼリー状の物体。スライムだ。女性はスライムを目にして怯えている。まさか、この人スライムなんかに苦戦したんじゃ……。


 とりあえず俺は女性に足を離してもらうように指示した。足にしがみつかれたままじゃ動けないからな。


 女性は両腕を俺の足から離し、俺の背後に回った。スライムはこちらを伺っている。俺は再びやりを構え直した。


 スライムは飛び上がって襲いかかってきた。俺は槍を横に薙ぎ払い、スライムを斬りつける。すると、スライムは斬れずに吹き飛び、ゲームなどで敵を倒した時によく聞く効果音を発して空中で消失し、何か小さい丸い銀色の物体を落とした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ