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エピローグ

 俺は両手で剣を持ち、振り下ろした構えで前を見据えている。目に写っているのは、割れた窓だ。


 構えをゆっくりと解き、直立する。


「和正さん!」


 美久の声が聞こえた。聞こえてきた方へと振り向く。


 美久が玄関よりこちらに向かって駆け寄って来ていた。当然、衣服を身に着けてだ。


「奴は……俺が、倒したのか……?」


 俺の問いかけに、美久は頷きながら「はい」と答えた。俺は奴に勝ったのだ。


 緊張の糸が切れ、力なくその場に膝をつく。美久は慌ててしゃがみ、俺の体を支えた。


「正和さん! しっかり!」

「はは……力が抜けた……」



 ――――



 その後、鉄格子でできた門の前に俺を筆頭にして、屋敷中の女性が集まった。皆集まっているのは、屋敷から脱出するためだ。奴がいなくなった以上、縛られることはないし、こんな所に留まっている理由など無い。


「なあ、兄ちゃん。うちが開けてもええか?」


 隣に立っている文子が問いかけてくる。


 文子が門を開けたからといって、なにか悪いことが起きるわけでもない。俺は文子に許可を出した。すると、文子は門の前まで行き、取っ手に手をかける。


「宝玉探し、ようやく再開ですね」


 並んで隣に立っている美久が笑顔で話しかけて来た。そう、あの門をくぐるとこの世界にやって来た本当の目的、宝玉を手に入れる旅が再開される。


 実なところを言うと、もう宝玉などどうでもいい。俺は美久と一緒ならずっとこの屋敷に閉じ込められていてもいいと思っていた。


 好きな人と同じ空間で生活してきたこの一年数ヶ月の間、奴から課せられていた勤めを除けば、それは楽しいことであった。ある時は、トランプ等で遊び、ある時は、会話をして楽しんだ。ずっとこの時間が続けばいいと思った。まあ、美久からすれば迷惑この上ないのかもしれないが。


 文子によって門が開け放たれた。それによってざわつきが起こる。


「よっしゃ、一番乗りや!」


 文子は勢い良く踏み出した。瞬間、彼女は屋敷の方へと吹き飛ばされる。それによって周りのざわつきは止み、シンと静まり返った。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 文子に駆け寄り、上向きで唸りながら寝ている彼女の上体を起こしてやる。一体、何が起こった?


「うちは大丈夫や。それにしても、何やねんこれ!」


 確かめなければならない。俺は門へと近づいて行く。美久や文子が引き止める為に声を掛けてきたが、気にしない。


 門の前に立ち、一回深く呼吸すると意を決して足を踏み出した。


 俺は門を――通過できた。


 屋敷の方に振り返り、文子に目をやる。驚愕の表情を浮かべていた。


「んなあほな!」


 文子は起き上がり、再び門を潜ろうと試みた。しかし結果は同じ、再び屋敷の方へ吹き飛ばされる。


 文子は潜れず、俺は潜れる。文子は女性で、俺は男性。このことから一つの結論に達した。


 俺は門を潜り、屋敷の敷地内へと入る。


「どうやら、屋敷の機能はまだ生きてるらしい」


 屋敷の機能、勇太が設定したもので、女性限定で屋敷の敷地内に入ると二度とこの敷地内から出られない。奴が消え去った今でも、それは健在のようだ。


 再びざわつきが起こった。恐らく皆、落胆しているだろう。この屋敷から脱出できると思っていたところで、これだからな。


「――仕方ないわね」


 女性の声が聞こえた。それは、一番最初に俺がこの屋敷に連れ込んだ女性のものだった。その女性は美久の隣に立っている。女性は踵を返すと屋敷の中へと向かって歩き出した。


「ちょ、ちょっと!」


 俺は女性を引き止めた。女性は足を止め、こちらに振り返る。


「何?」

「『何?』じゃねぇよ。そんなあっさり諦めていいのか? ここから開放されるんだぞ?」

「通れないものは仕方ないじゃない。潔く諦めるわよ。それにね、私はあいつを除けばここに不満はないの。皆もそうじゃないの?」


 辺りから女性に対する賛同の声が上がり始める。女性が言った「あいつ」とは、勇太のことだろう。


「私達を縛り付けていたあいつはもういない。つまりこれからはこの安全な場所で好きな時に寝て、好きな時に起きて遊ぶ自由奔放な生活を送れる。これって、ある意味勝ち組人生じゃないの? ま、そういうことだから」


 女性は再び屋敷の方を向き、歩いて行った。それにつられて周りの女性達も屋敷の中へ入って行く。


 それにしても、閉ざされた空間の中で、寝たい時に寝て、遊びたい時に遊ぶってそれって「ニート」じゃ……いいのか? それで?


「あはは、私達も行きましょうか?」


 美久が苦い笑顔を浮かべながら言った。



 ――――



 あれから数年の年月が流れた。


 ベッドの上で目を覚ます。窓の外では日が昇り始めている。夜が明けたようだ。


「ふわぁぁ……おはようございます……」


 隣で寝ている美久が目を覚ましたようだ。俺は「おはよう」と返事を返す。


 あの後、俺は美久に告白した。前も言ったようだが、美久は人妻ではあるが、既に死んでいる今では関係ない。


 美久は俺の告白を喜んで受け入れてくれた。そうして今では、同じ部屋で暮らしている。


「今日は何をしますか?」


 美久が聞いてくる。この数年でこの空間でできることはやり尽くした。もちろん夜に男女がやるあれも。やりたいことはもう無くなっていた。


 床の方に目をやる。床にはトランプをはじめ、色々な物が散乱している。まさに「汚部屋」だ。


「何も無いし、寝るか……」

「そうですね」


 今日もまた、ベッドの上で一日を過ごすことになりそうだ。


 ――この安全な場所で好きな時に寝て、好きな時に起きて遊ぶ自由奔放な生活を送れる。これって、ある意味勝ち組人生じゃないの?


 ふと、あの時の女性の言葉を思い出した。勝ち組人生ねぇ……俺が思い描いていた勝ち組人生は確か、お金に困らず、綺麗な女性と人生を共にする。そうだったはず。


 確かに今はお金に困っていないし、綺麗な女性と一緒にいる。でも、何か違うんだよなぁ……。


(まあ、いいか。どうでも)


 そう思うと、俺は目を閉じて闇の中へと落ちて行った。

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